定年後は海外でゆっくり暮らしたい。でも、日本の年金で足りるのか、病気になったらどうするのか。老後に住みやすい国ランキングを見比べながら、老後の海外移住でおすすめの国を考え始めた方の多くが、最初にこの不安で立ち止まります。
この記事では、年金の受け取り方、医療、生活費という3つの観点を、日本年金機構、国税庁、外務省、各国政府の公表データで国ごとに比べていきます。取り上げるのはスペイン、ポルトガル、タイ、ギリシャ、フィリピンの5カ国です。
なお、1章から4章は公表データに基づく客観的な紹介で、筆者が思う老後に住みやすい国のランキングではありません。筆者自身の考えは、5章と6章でお伝えします。
目次
※本記事の年金・税・生活費指数・滞在資格の情報は、日本年金機構、国税庁、外務省、各国政府、Numbeoなどが公表したデータに基づき、2026年10月時点でまとめたものです。ビザの資金要件や医療・年金に関する制度は頻繁に改定されます。渡航や申請の前に、各国の移民局・大使館、日本年金機構などの公式サイトで最新情報をご確認ください。個別の税務・年金の判断は、専門家にご相談ください。
1. 老後の海外移住先を比べる3つの観点:年金・医療・生活費

老後の海外移住の全体像は、老後の海外移住の完全ガイドで解説しています。この記事は、国ごとの違いを並べて比べることに絞ります。
年金は受け取り方と税の扱いで見る
日本の年金は、届出をすれば海外でも受け取れます(日本年金機構)。国によって変わるのは、日本での源泉徴収が租税条約で免除・軽減されるか、社会保障協定があるか、どの通貨で送金されるかの3点です。
租税条約は5カ国すべてと結ばれていますが(財務省)、年金の課税の扱いは条約ごとの条文で決まります。
医療は外務省の医療情報と公的医療への入り方で見る
医療は、外務省「世界の医療事情」や海外安全ホームページの記載と、その国に住む外国人が公的医療を使える制度が公表されているかで見ます。日本の健康保険の扱いは、海外移住すると健康保険はどうなる?にまとめています。
生活費は日本との物価指数の差で見る
生活費は、Numbeoの生活費指数(2026年版・ニューヨークを100とした相対値)で、日本と並べて見ます。日本の物価指数は47.6、家賃指数は13.6です。Numbeoは民間の指数で、円の月額を示すものではありません。
老後向けの滞在資格は各国の条件として添える
老後向けの滞在資格は比較の軸にせず、資金要件と働けるかどうかの2点を各国の条件として添えます。
取り上げる5カ国と順位の見方
候補は、海外の退職者向け調査(International Livingの「Global Retirement Index 2026」)の上位国や、老後向けの滞在資格がある国から、3つの観点の公表データがそろう国を、ヨーロッパとアジアにまたがるように選びました。
並び順は、3つの観点のバランスを見たおおよその目安です。どの観点を重く見るかで、自分にとっての順番は入れ替わります。
2. 老後の海外移住におすすめの国ランキング5選

シニアの海外移住先ランキングとして、老後の海外移住におすすめの国を1位から紹介します。各国とも、老後向けの滞在資格の条件と注意点を添えます。
1位 スペイン:日本との協定があり、公的医療に月額で加入できる制度もある国
年金について、スペインとは社会保障協定が発効しています(年金のみ・加入期間の通算あり)。租税条約も結ばれています。
医療について、外務省の海外安全ホームページは、スペインの医療レベルを他の先進国とほぼ同水準とし、診察は予約制です。1年以上住んだ人が公的医療に月額で加入できる「特別協定」をスペイン保健省が公表していて、65歳以上の月額は€157(約2万9,000円)です。
生活費について、物価指数は51.4、家賃指数は22.3です(日本は47.6と13.6)。
滞在資格は、非就労居住ビザです。主申請者には、IPREM(スペインの公的な指標額)の400%にあたる資金が求められ、家族1人につき100%が加わります。IPREMを月€600として12か月分で計算すると年€28,800(月€2,400=約44万4,000円)ですが、計算の仕方は領事館によって異なる場合があります。スペインで認可された自己負担なしの民間医療保険への加入も条件で、就労もテレワークも認められていません。
※本情報は2026年10月時点のものです。最新情報はスペイン外務省(在ロサンゼルス総領事館)でご確認ください。
注意したいのは、資金要件の高さです。
こんな人におすすめ
資金要件を満たす年金や資産があり、働かずに暮らす前提で、公的医療への加入も視野に入れたい人。
2位 ポルトガル:物価指数が日本に近く、年金収入で申請できる滞在資格がある国
年金について、ポルトガルとは社会保障協定がありません。租税条約は結ばれています。
医療について、外務省によると、公的医療(SNS)に入っていれば公立病院を低額か無料で受診できます。ただ、日本語で診療できる医師はおらず、公立病院は混雑が常態化していて、外務省は民間の保険に入って私立の病院を受診することも勧めています。
生活費について、物価指数は48.7、家賃指数は23.5です(日本は47.6と13.6)。
滞在資格は、年金や不労所得のある人向けのD7ビザで、年金額の証明などをもとに申請します。ポルトガル外務省は、居住ビザの生計手段の基準を最低賃金とし、2026年は月€920(約17万円)、2人目の成人は50%加算としています。D7でもこの基準が目安とされますが、D7に固有の金額は公式ページに明記されていません。
※本情報は2026年10月時点のものです。最新情報はポルトガル外務省ビザポータルでご確認ください。
注意したいのは、家賃指数が日本より高いことです。
こんな人におすすめ
ヨーロッパで、年金などの収入をもとに申請できる滞在資格を探している人。
ポルトガルのビザや暮らしの詳細は、ポルトガル移住の完全ガイドにまとめています。
3位 タイ:物価指数が低く、バンコクに日本語対応の病院がある国
年金について、タイとは社会保障協定がありません。租税条約に年金条項がなく、日本での源泉徴収の免除が受けられない国として、日本年金機構が名前を挙げています。
医療について、外務省によると、私立病院はすべて自由診療で高額になりやすく、保証金を求められることもあります。バンコクには、日本語の通訳や日本人の医師がいる私立病院があります。
生活費について、物価指数は36.8、家賃指数は12.8です(日本は47.6と13.6)。
滞在資格は、ノンイミグラントO-A(ロングステイ)です。申請時に50歳以上で、預金80万バーツ以上(約376万円)または月収6万5,000バーツ以上(約30万5,000円)の証明と、医療保険への加入が条件です。就労は禁止されています。
※本情報は2026年10月時点のものです。金額の表記はタイ側の資料によって異なる場合があります。最新情報はタイ王国外務省(ノンイミグラントO-Aの案内)でご確認ください。
注意したいのは、首都と地方で医療事情に差があることです。
こんな人におすすめ
物価指数が低い国で暮らしたい人。医療は、バンコクなど日本語対応のある都市の私立病院を前提に考えられる人。
タイの制度や暮らしの詳細は、タイ移住の完全ガイドで解説しています。
4位 ギリシャ:退職者向けの海外調査で1位になった国
ギリシャは、米国の雑誌International Livingの「Global Retirement Index 2026」(2025年12月発表)で1位になった国です。米国の退職者向けの調査で、日本の年金や税の扱いは評価に含まれていません。
年金について、ギリシャとは社会保障協定がありません。租税条約は2024年12月に発効しています。
生活費について、物価指数は53.3、家賃指数は日本並みの12.9です(日本は47.6と13.6)。医療は、外務省「世界の医療事情」で、渡航前に最新の記載を確認してください。
滞在資格は、FIP(経済的に自立した人向けの居住許可)です。
※本情報は2026年10月時点のものです。必要な金額と就労の可否を含む最新情報は、ギリシャ移民・難民省でご確認ください。
注意したいのは、制度の改定が続いていることです。
こんな人におすすめ
家賃指数が日本並みの国で、ヨーロッパの老後移住先を探している人。
5位 フィリピン:物価指数が5カ国で最も低く、日本との協定もある国
年金について、フィリピンとは社会保障協定が発効しています(年金のみ・加入期間の通算あり)。租税条約は1980年に発効したものがあり、2026年5月に新しい条約が署名されています(未発効)。
生活費について、物価指数は29.1、家賃指数は7.2で、どちらも5カ国のなかで最も低くなっています(日本は47.6と13.6)。医療は、外務省「世界の医療事情」で、渡航前に最新の記載を確認してください。
滞在資格は、SRRV(特別居住退職者ビザ)です。主申請者は40歳以上で、年金受給者の区分では、預託金が50歳以上でUSD15,000(約237万円)、40〜49歳でUSD25,000(約396万円)です。あわせて、生涯年金が月額USD800以上(単身・約12.7万円)、扶養家族がいる場合はUSD1,000以上(約15.8万円)が条件です(フィリピン退職庁PRA)。
注意したいのは、制度の改定が続いていることです。2025年に条件が改定されたとの情報があり、申請の前にPRAの公式ページで最新の値を確認してください。
こんな人におすすめ
物価と家賃の指数が低い国で、年金を受け取りながら暮らしたい人。日本との社会保障協定を活用したい人。
アジアの国を詳しく比べたい方は、アジアで住みやすい国ランキングをご覧ください。
3. 老後の海外移住先ランキングの比較一覧表

5カ国を、年金・医療・生活費と老後向けの滞在資格の条件で一覧にしました。
| 順位(目安) | 国 | 社会保障協定 | 租税条約と年金 | 医療 | 物価指数(日本=47.6) | 老後向けの滞在資格と資金の目安 | 就労 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1位 | スペイン | あり(年金のみ・通算あり) | 条約あり(年金の扱いは条文で確認) | 特別協定で公的医療に加入可(65歳以上は月€157) | 51.4 | 非就労居住ビザ:IPREMの400%(月€600換算で年€28,800) | 不可(テレワークも不可) |
| 2位 | ポルトガル | なし | 条約あり(年金の扱いは条文で確認) | 公的医療(SNS)あり。日本語診療の医師はいない | 48.7 | D7:生計手段の基準は月€920(2026年)、2人目の成人は50%加算 | 公式で確認 |
| 3位 | タイ | なし | 年金条項なし(源泉徴収の免除なし) | 私立は自由診療。バンコクに日本語対応の病院あり | 36.8 | O-A:50歳以上、預金80万バーツ(約376万円)または月収6万5,000バーツ(約30万5,000円) | 禁止 |
| 4位 | ギリシャ | なし | 条約あり(2024年発効) | 外務省で確認 | 53.3 | FIP:金額は公式で確認 | 公式で確認 |
| 5位 | フィリピン | あり(年金のみ・通算あり) | 条約あり(年金の扱いは条文で確認) | 外務省で確認 | 29.1 | SRRV:40歳以上、年金受給者は預託金USD15,000〜と月額USD800以上の年金 | 公式で確認 |
※社会保障協定:日本年金機構「社会保障協定」/租税条約:財務省「我が国の租税条約ネットワーク」・日本年金機構「海外に転出するとき」
※医療:外務省「世界の医療事情」・海外安全ホームページ(スペイン・ポルトガル)・スペイン保健省/物価指数:Numbeo「Cost of Living Index by Country 2026 Mid-Year」(民間の指数)
※滞在資格:各国の公式ページ(2章の各国の注記を参照)・フィリピン退職庁PRA。ユーロは1€=185円、バーツは1バーツ=約4.70円、米ドルは1ドル=約158.3円(2026年10月8日の市場参照値)で換算
※順位は、3つの観点のバランスを見たおおよその目安です。資金要件と比べる目安として、厚生年金の標準的な夫婦の年金額は2026年度で月237,279円です(日本年金機構)
表で見ると、社会保障協定があるのはスペインとフィリピンで、物価指数が低いのはフィリピンとタイです。居住者が月額で公的医療に加入できる特別協定を保健省が公表しているのは、スペインです。
ビザの種類と条件を比べたい方は、ロングステイできる国一覧
物価だけで比べたい方は、物価が安い国ランキング
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4. 老後の海外移住で日本の年金を受け取るときに確認すること

日本の年金を海外で受け取るときは、届出、受取通貨、日本での課税の3つを確認します。日本の年金に加入し続けるかどうかは、海外移住したら国民年金はどうなる?で解説しています。
海外で受け取るための届出と現況届
海外で年金を受け取るには、「外国居住年金受給権者 住所・受取金融機関 登録(変更)届」を提出します。振込先は、日本国内の金融機関(ゆうちょ銀行を除く)か、海外の金融機関です。
現況届は年1回、誕生月の末日までに提出します。日本国籍の方は、居住国の日本領事館などが発行する在留証明を添付します。また、年金生活者支援給付金は、海外へ転出すると支給されません。
受取通貨と為替
海外の口座で受け取る場合、送金される通貨は国ごとに決まっていて、選べません。
年金額は円で決まっているため、為替が動くと、現地で使える金額も変わります。
日本での源泉徴収と租税条約
日本に住んでいない人(非居住者)が受け取る公的年金には、控除後の額に対して20.42%の源泉徴収がかかります。租税条約で免除・軽減される場合は、届出書を支払者経由で提出する必要があります。
租税条約があっても、年金条項がないなどの理由で適用されない国があります。日本年金機構は、カナダ、タイ、スウェーデンなどを例に挙げています。日本を出るときの課税については、出国税とはで解説しています。
※出典:日本年金機構「海外に転出するとき」・「海外の金融機関での受取」・「海外居住者の現況届」/国税庁「No.2884」「No.2888」
5. ヨーロッパ在住10年の私が考える、老後の海外移住先の選び方

ここからは、ヨーロッパで10年暮らしてきた私の考えをお伝えします。データで国を比べることと、自分の老後をどう生きるかを決めることは、別の話だと思っているからです。
年金と資産だけで暮らす30年をどう考えるか
60歳で引退してから90歳近くまでの約30年は、人生の残りの3分の1にあたります。この長い時間を、年金と金融資産だけで暮らし続ける設計は、もう現実的ではないと私は考えています。
年金額は制度で決まり、物価や為替は自分では動かせません。資産を取り崩すだけの暮らしでは、そのどれかが動くたびに、住み続けられるかどうかが揺らぎます。80代になってから資金が足りないと気づいても、そこから打てる手は多くありません。
私の場合、海外で時間がゆっくり流れる感覚を知ったあとに日本へ戻ると、時間が3倍ほど早く過ぎていくように感じました。このままでは、気づいたら老後の年齢になってしまう。その恐れを感じたときに、イギリスやヨーロッパに永住すると決めました。そこからイギリスで自分の事業を立ち上げ、今に至るまでイギリスで暮らしています。
リタイアメントビザで暮らすのも一つの選択
2章で見たとおり、老後向けの滞在資格は資金の条件を満たしていることが前提で、スペインやタイのように働けない国もあります。それでも、年金と資産で心地よく暮らせるなら、それも一つの選択だと私は思います。
円で決まる年金が為替でどう動くか、制度がどれくらい変わりやすいかを知ったうえで、自分で選ぶことが大切です。
私が老後に向けて考えていること
私の母は、自宅で作法教室を開いていて、人の役に立つことが幸せだと話しています。その姿を見ていると、何歳になっても誰かに貢献できる仕事があることが、生きがいにつながるのだと感じます。
体を動かさなくても続けられる事業を持っていれば、年齢を重ねても価値を届け続けられます。私は今もイギリスに住み、永住権を持っています。この永住権をベースに、子育てを終えたら妻と一緒に、EUの長期滞在権の取得に乗り出す予定です。老後をどの国で過ごすかは、今も自分で選び続けている途中です。
6. 老後の海外移住で住み続けるために、事業の道は年齢で閉じない

老後の海外移住で住み続けるために、私が大切にしているのは、事業を持つ道です。
雇用の道は狭くなっても、事業の道は閉じない
雇用の道は、年齢とともに選べる場所が少しずつ狭くなります。自分の事業は、何歳からでも始められます。働く時間や場所、体が動きにくくなっても続けられる形を、自分で選べます。
会社員として働いた時間を否定する話ではありません。会社で培った経験や人とのつながりは、事業を始めるときの土台になります。
事業を持つと滞在資格の選択肢が広がる
事業を持つと、老後向けの滞在資格だけでなく、滞在資格の選択肢そのものが広がります。たとえばスペインには自営業者向けのビザがあり、スペインの起業ビザで条件をまとめています。最初から永住権までの道筋を考えたい方は、永住権が取りやすい国ランキングをご覧ください。
50代からの事業と、地道に積み上げる姿勢
受講生の松浦さんは、50代でロンドンに歯科を開業し、移民を雇う権利であるスポンサーシップライセンスも取得しています。詳しくは50代でロンドン歯科開業で紹介しています。
事業といっても、短期間で一気に稼ぐ話ではありません。日本で自分の強みを少しずつ形にして、地道に積み上げていく。その時間の先に、年齢に左右されずに国を選べる暮らしがあると、私は考えています。
7. 老後の海外移住についてよくある質問(Q&A)

老後に住みやすい国ランキングは、1位スペイン、2位ポルトガル、3位タイ、4位ギリシャ、5位フィリピンという目安になりました。
年金の受け取り方、医療、生活費は、老後の暮らしを支える物差しです。ただ、それだけで毎日が満たされるとは限りません。データで上位の国が、自分にとって心が動く国とも限りません。
どの国に住むかより、毎朝起きて、その国で何をしようかと思えるかどうか。私は、何歳になっても誰かの役に立ち、自分で選んだ国で暮らし続けられる人生の方が、ずっと楽しいと思っています。
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