ビザ・手続き

スペインの起業ビザ(自営業者ビザ)とは|制度の違い・取得条件・永住権への道

スペインで事業を持ちながら暮らしたい。そう考えたとき、多くの方が最初にぶつかるのが「起業ビザ」という言葉の分かりにくさです。調べてみると、ある記事はスタートアップ向けの制度を、別の記事は個人事業主向けの制度を指していて、同じ「起業ビザ」でも中身が違う。この記事では、スペインの起業ビザに関わる2つの制度を正確に切り分けたうえで、取得条件と永住権までの道のりを整理していきます。

ご注意:本記事のビザ要件・費用・制度等の情報は2026年7月時点のものです。スペインの移民制度は頻繁に変更されます。申請前に、必ず在日スペイン大使館・スペイン政府公式サイトで最新情報をご確認ください。

1. スペインの起業ビザとは|2つの制度を正しく理解する

バルセロナのゴシック地区の街並み

スペインの起業ビザと一口に言っても、実は根拠となる法律も審査機関も異なる2つの制度が存在します。日本語の情報ではこの2つがしばしば混同されているため、まずはそれぞれの輪郭をはっきりさせておきます。

スタートアップビザ(Visado para emprendedor)の概要

スタートアップビザ(起業家のための居住査証)は、2013年に制定された起業家支援法(Ley 14/2013)によって創設された制度です。この制度の最大の特徴は、事業計画に対する「有利報告(informe favorable)」の取得が申請の必須要件になっている点にあります。在東京スペイン大使館の案内では、この有利報告の発行元は「経済商業事務所(Oficina Economica y Comercial)または国際通商投資局長」とされています。対象となるのは、革新的でスケーラブル(拡張性のある)な事業であること。手数料は80ユーロ(約1万4,800円)、審査期間は原則10営業日とされています(在東京スペイン大使館公式情報)。日本語で「スペインの起業ビザ」を調べると、多くの記事がこのスタートアップビザを指していることが分かります。

自営業ビザ(Cuenta Propia/Autónomoビザ)の概要

一方、スペイン自営業ビザ(Cuenta Propia)は、有利報告の取得を必要としない、一般的な個人事業主向けの居住・就労許可です。根拠となるのは一般労働法上の「自己勘定による居住・就労許可(residencia y trabajo por cuenta propia)」で、対象は「自分自身で事業を営む外国人」全般です。スペイン労働省への申請、事業計画書の提出、資金証明などが要件となります。個人でマーケティング・コンサルティング・デザイン・EC等を営むフリーランスにとっては、こちらのルートのほうが現実的な選択肢になるケースが多いといえます。

2つの制度を混同しないための整理

この2つを日本語では同じ「起業ビザ」という言葉でひとくくりにしてしまいがちですが、制度としては全く別物です。混同を避けるために、主な違いを一覧表にまとめました。

比較軸 スタートアップビザ 自営業ビザ(Cuenta Propia)
根拠法 起業家支援法(Ley 14/2013) 一般労働法(外国人法)
審査機関 経済商業事務所等(有利報告の発行) スペイン労働省
対象事業 革新的・スケーラブルな事業 個人事業全般
資金要件 事業計画による(規定あり) 資金証明が必要
家族帯同 可能 可能
永住権への道 更新を重ねて到達可能 更新を重ねて到達可能

見ての通り、審査機関からして違います。日本語の情報は有利報告を前提としたスタートアップビザに寄りがちですが、個人事業ベースで事業をしたい方にとって現実的なのは、次の章で解説する自営業ビザであるケースが多いというのが実情です。どちらに該当するかは、次の2つの章を読み進めながら判断していただければと思います。

※出典: 在東京スペイン大使館公式サイト 等。最新の制度情報は必ず公式窓口でご確認ください。

2. 自営業ビザ(Cuenta Propia)の取得条件と手続きの流れ

書類とノートを扱う女性の手元

自営業ビザは、個人でマーケティングやコンサルティング、デザイン、EC事業などを営む方にとって、最も現実的なルートとされています。ここでは応募資格・必要書類・審査のポイントを具体的に見ていきます。

スペイン自営業ビザの応募資格と必要書類

応募資格としては、一般的に次のような項目が求められます。成人であること、犯罪歴がないこと、スペイン入国拒否歴がないこと、健康保険に加入していること、十分な資金証明があること、事業を遂行する能力を証明できること、事業がスペイン経済に貢献する計画であること、社会保障への加入意思があること、納税義務を理解していること。この9つが主な要件です。

必要書類としては、パスポート、無犯罪証明書、健康診断書、事業計画書、資金証明書、資格証明書などが一般的に求められます。これらはあくまで一般的な要件であり、個別の事情によって求められる書類は変わる可能性があるため、申請前に必ずスペイン労働省の公式申請フォームや大使館公式情報で最新の要件をご確認ください。

※出典: スペイン労働省申請フォーム・在東京スペイン大使館公式情報を参照。個別事情により異なるため、専門家への確認を推奨します。

事業計画書のポイント

自営業ビザの審査で事業計画書について重視されるポイントは、大きく4つあるとされています。1つ目は、スペイン経済への貢献(雇用創出や地域活性化につながるか)。2つ目は、事業の実現可能性(具体的な収支計画があるか)。3つ目は、申請者自身の専門性・経験の証明。4つ目は、既存のクライアントや契約の有無です。これがあれば審査上の加点材料になるとされています。

「事業計画書」と聞くとハードルが高く感じられるかもしれませんが、実際にはフリーランスとしての実績や、これまでのクライアントリスト、収支の見込みを整理したものであれば十分に機能するケースが多いようです。ウェブマーケティングのような無形サービス業であっても、実績を丁寧に積み上げていれば審査を通過できる余地は十分にあります。ただし、事業計画書の審査基準は個別事情により異なるため、「一般的には〜とされている」という前提で捉え、詳細は専門家に確認することをおすすめします。

申請の流れと審査期間

自営業ビザの申請は、おおむね次のようなステップで進みます。

①日本国内で無犯罪証明・健康診断等の必要書類を準備する

②在東京スペイン大使館にビザを申請する

③審査を受ける(労働省の初期審査と大使館でのビザ審査の2段階があり、全体で数ヶ月かかることがあります)

④ビザを取得し、渡航する

⑤現地で外国人登録(NIE取得)・社会保障への加入を行う

⑥Autónomo(個人事業主)としての登録を行う

初回の居住許可の後は、更新を重ねるごとに有効期間が延びていく仕組みになっており、更新の条件は事業実態と納税実績が伴っているかどうかです。審査期間・更新条件はいずれも変更される可能性があるため、最新情報は大使館または移民弁護士にご確認ください。

3. スタートアップビザ(起業家ビザ)の取得条件と手続きの流れ

マドリードの商店街の街並み

続いて、有利報告の取得を前提とするスタートアップビザについても、取得条件と手続きの流れを見ておきます。自営業ビザとの違いを意識しながら読み進めてください。

有利報告(informe favorable)の仕組みと通過のハードル

スタートアップビザの審査で最大の関門となるのが、事業計画に対する「有利報告(informe favorable)」の取得です。在東京スペイン大使館の案内では、この有利報告の発行元は「経済商業事務所(Oficina Economica y Comercial)または国際通商投資局長」とされています。スペイン国内の運用ではENISA(国立イノベーション公社)が評価に関与するケースもあり、事業計画の「革新性」「スケーラビリティ(拡張性)」等が審査されます。この有利報告がビザ申請の前提条件になります。

具体例で考えると、イメージがつかみやすくなります。例えば、AIを活用した新しいサービスを立ち上げるような事業は、革新性・スケーラビリティの観点から評価される可能性があります。一方、個人向けのコンサルティング業のように、既存のビジネスモデルに近い形態は、通常はスタートアップビザの対象になりにくく、前の章で紹介した自営業ビザのほうが向いているとされています。「自分の事業はどちらに当てはまるか」を考える際の一つの目安にしていただければと思います。

※出典: 在東京スペイン大使館公式情報等を参照。ENISA評価の詳細な基準は変更される可能性があるため、公式窓口でご確認ください。

申請の流れと初期滞在期間

スタートアップビザの申請は、おおむね次のステップで進みます。

①経済商業事務所等に事業計画の評価を申請する

②有利報告(informe favorable)を取得する

③在東京スペイン大使館にビザを申請する(手数料80ユーロ・約1万4,800円、審査期間は原則10営業日)

④1年間の居住許可を取得する

⑤2年間の更新を行う

⑥5年が経過した時点で永住権を申請できる

自営業ビザとの最大の違いは、やはり有利報告の取得が必要かどうかにあります。初回の居住許可が1年である点、更新時には事業継続の実績を求められる点は自営業ビザと共通していますが、その手前に有利報告という関門が存在するかどうかで、申請の難易度も準備期間も大きく変わってきます。

4. スペインのビザ種類一覧|起業ビザの位置づけを俯瞰する

スタンプが押されたパスポート

ここまで起業ビザ・自営業ビザを詳しく見てきましたが、スペインにはこの2つ以外にもさまざまなビザの種類があります。全体像の中で起業ビザがどこに位置するのかを、一覧表で俯瞰してみます。

就労・非営利・ノマド・投資……主なビザとの違い

スペインの主なビザ種類を整理すると、次のようになります。

ビザ名 対象者 就労可否 最短永住権年数(目安) 2026年ステータス
被雇用者ビザ(Cuenta Ajena) 現地企業に雇用される人 雇用主のスポンサーが前提 5年 存続
自営業ビザ(Cuenta Propia) 個人事業主・フリーランス 自身の事業として可 5年 存続
起業家ビザ(Emprendedor) 革新的な事業を行う起業家 有利報告の取得が前提 5年 存続
デジタルノマドビザ 海外企業から報酬を得るリモートワーカー 海外雇用主・海外顧客向け業務のみ 5年 存続
非営利滞在ビザ 就労を伴わない長期滞在者 不可 5年 存続
ゴールデンビザ 投資家 2025年廃止
学生ビザ 留学生 制限付きで可 ―(在留目的が異なる) 存続

こうして並べてみると、被雇用者ビザは雇用主のスポンサーシップが前提となる一方、自営業ビザ・起業家ビザは自分自身の力で事業を成立させることが前提になっている点が対照的です。なお、投資移住の代表格だったゴールデンビザは2025年に廃止されています。この経緯については、別記事(ゴールデンビザ解説記事)で詳しく解説していますので、そちらをご参照ください。

ゴールデンビザとは|ポルトガル・スペインで終了が進む投資移住の今

※出典: 在東京スペイン大使館公式情報等を参照。制度は変更される可能性があるため、最新情報は公式窓口でご確認ください。

5. スペインで起業ビザを取るなら知っておきたい現実

ヨーロッパの石畳の路地を歩く人の後ろ姿

ここまで制度の中身を整理してきましたが、最後に、制度の外側にある大切な視点についてお話ししておきたいと思います。

ビザを取ることと「その国で生きる力」は別の話

ビザは、あくまで入口の許可証です。取得できたからといって、その先の生活が自動的に保証されるわけではありません。自営業ビザもスタートアップビザも、取得したあとに事業を継続し、納税し、更新を重ね続けることで初めて、スペインに暮らし続けることができます。

ビザの種類選びよりも本質的なのは、「自分で稼ぐ力を先に持っているかどうか」という点です。これは、雇用に頼るのではなく自分自身の事業を持つという発想の延長線上にあります。実際、自営業ビザで入り、1年、2年、2年と更新を重ねて5年に到達し、そこから永住権を申請するというルートは、逆算して設計しておくことができます。「行ってから考える」のではなく、「どのルートで永住権まで到達するか」を先に描いておくこと。これができている人ほど、実は制度上のハードルよりも先に進みやすいというのが実際のところです。

ゆっくり積み上げることが最強の戦略になる

スペインのビザ更新が1年から2年、そして永住権へと段階を踏んでいく仕組みになっているのは、実はある種の思想と一致しています。それは、急がず、ゆっくりと積み上げていくことこそが結果的に最も安定した道になる、という考え方です。

投資額を積んで一気に居住権を得るゴールデンビザは廃止された一方で、小さく事業を始めて実績を積み重ねていく起業ビザ・自営業ビザは制度として存続しています。これは偶然ではなく、EU全体が「地に足のついた移住者」を歓迎する方向に向かっているという構造的な流れの表れだと捉えることができます。短期間で一気に何かを狙う道ではなく、地道に積み上げていく道こそ、結局いちばん遠くまで行ける。そう思わせてくれる制度設計だといえるのではないでしょうか。

6. まとめ|スペインの起業ビザを検討するあなたへ

ここまで、スペインの起業ビザに関わる2つの制度と、その先にある考え方について見てきました。改めて振り返ると、次の4点が重要なポイントです。

1つ目は、スペインの起業ビザには「スタートアップビザ」と「自営業ビザ(Autónomo)」という2つの制度があり、審査機関も対象事業も全く異なるということ。2つ目は、個人事業主やフリーランスにとって現実的なのは、多くの場合、自営業ビザであるということ。3つ目は、ゴールデンビザ廃止後、スキルをベースにした移住ルートの重要性がこれまで以上に増しているということ。4つ目は、ビザの取得はゴールではなくスタートであり、永住権まで見据えて逆算しておくことが大切だということです。

POINT|大切な考え方

どのビザが取れるかではなく、その国で何をして生きていきたいかを先に考える。順番が逆になると、ビザが取れても暮らしが続かないことがあります。

スペインでの起業ビザを検討する際には、制度の細部と同じくらい、その先でどう生きていきたいかという問いにも向き合ってみてください。

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