マイナンバーカードは、本人確認や行政のオンライン手続きの基盤になりつつあります。海外移住を考えたとき、この番号やカードがどうなるのか、正確に理解している方はまだ多くないというのが実情です。2024年5月の法改正で、海外転出後もマイナンバーカードを継続して使えるようになりましたが、制度の詳細まで把握できている方は少ないのではないでしょうか。
海外移住時のマイナンバーの基本的な仕組みから、2024年以降のカード継続利用制度、出国前にやっておくべき手続きまでを整理しました。起業ビザでヨーロッパに移住し個人事業主として活動してきた私の経験上、手続きは移住設計の一部として出国前に一つずつ潰しておくのが確実です。
目次
ご注意:本記事の制度・手続きに関する情報は2026年8月時点のものです。制度は改正される場合があります。ご自身の状況への適用については、必ず マイナンバーカード総合サイト またはお住まいの市区町村窓口にご確認ください。
1. 海外移住でマイナンバーはどうなるか:基本の仕組み

海外移住とマイナンバーの話を整理する前に、まず押さえておきたいのが「マイナンバー(個人番号)」と「マイナンバーカード」という、似ているようで別物の2つの言葉です。
マイナンバー(個人番号)とマイナンバーカードの違い
マイナンバーとは、住民票を持つすべての人に付番される12桁の個人番号のことです。この番号は、一度付番されると原則として一生変わりません。税や社会保障、災害対策の分野で行政手続きを効率化するために使われる、いわば背番号のような存在です。
一方でマイナンバーカードは、この番号が記載されたICチップ付きのプラスチックカードです。顔写真付きの身分証明書として使えるほか、電子証明書の機能を持ち、マイナポータルへのログインやe-Taxでのオンライン申告など、さまざまな行政サービスの入口になっています。海外転出時に影響を受けるのは、主にこのカードの方だという点を、まず頭に入れておいてください。
海外転出届を出した場合のマイナンバーの扱い
2024年5月の法改正が施行される前は、海外転出届を提出すると、マイナンバーカードは返納または失効が原則でした。カードに搭載されていた電子証明書も同時に失効するため、マイナポータルへのログインをはじめとするオンライン手続きが軒並み使えなくなっていました。
ただし、番号そのものが消えるわけではありません。マイナンバー自体は住民票の除票後も本人に紐づいたまま残ります。「カードは使えなくなるが、番号は残る」という、この一見ねじれた仕組みが、海外移住時のマイナンバーをめぐる混乱の大きな原因になっていました。2024年5月の改正は、まさにこの「カードは使えない」という部分を変えるものです。次の章で詳しく見ていきます。
出典:デジタル庁「国民の皆さまの利便性向上につながる『改正マイナンバー法』などが施行されました」
2. 2024年以降の制度変更:海外移住後もマイナンバーカードが使える

海外移住後のマイナンバーカードの扱いは、2024年5月を境に大きく変わりました。ここが、いちばんお伝えしたいポイントです。
改正の背景と対象者
2024年5月27日に施行された改正住民基本台帳法等により、海外転出後もマイナンバーカードを継続利用できるようになりました。背景には、海外在留邦人の増加と、在外公館での手続き、将来的な在外選挙人登録等でのマイナンバーカード活用が想定されていることがあります。対象となるのは日本国籍を持つ方で、国外転出時に所定の手続きを行った方です。
海外で使える機能と使えない機能
継続利用の手続きをすませたマイナンバーカードで海外から使えるようになった主な機能は、マイナポータルへのログイン、在外公館での本人確認、電子証明書を使ったオンライン手続きです。対応するオンラインサービスは、今後も順次拡大していくとされています。
一方で、使えない機能もあります。日本国内の健康保険証としての利用は、国民健康保険の資格喪失にともない対象外になります。コンビニでの各種証明書発行サービスも、住民票がない状態では利用できません。また、マイナポータル上でもすべての機能が使えるわけではなく、パスポートのオンライン申請、引越しのワンストップ手続、国家資格の登録・各種申請、医療分野の電子署名利用申請、国民年金に関する一部手続は、国外転出者向けカードでは利用できない制限があります。「カードは使えるようになったが、国内在住者とまったく同じ機能ではない」というのが、正確な理解です。
継続利用の手続き方法
継続利用を希望する場合は、海外転出届を提出する際に、マイナンバーカードと国外継続利用申請書をあわせて窓口に持参します。市区町村側でカードの券面に国外転出者向けの表示を追記し、ICチップ内の情報を書き換えたうえで、国外転出者向けの電子証明書を発行するという流れです。
ここで注意したいのは、国外転出予定日の前日までにこの手続きを済ませておく必要があるという点です。手続きをしないまま出国してしまうと、カードは従来どおり失効扱いになります。転出届の提出と継続利用の手続きは、必ず同時に済ませておくことをおすすめします。
POINT|海外移住時のマイナンバーカードで押さえるべきこと
マイナンバー(番号)は消えないが、マイナンバーカードは手続きをしなければ使えなくなる。継続利用を希望するなら、海外転出届を出すタイミングで一緒に申請することが欠かせません。
出典:マイナンバーカード総合サイト「マイナンバーカードを国外で利用する」、マイナンバーカード総合サイト「国外転出をする場合は、どうすれば良いですか?」
3. 海外移住時にマイナンバーカードを持たずに出国した場合

継続利用の手続きをせずに、あるいはそもそもカードを持たずに出国してしまった場合はどうなるのか。ここも海外移住とマイナンバーを考えるうえで気になるところだと思います。
カードなしで困るケース
いちばん困るのは、海外から日本の行政手続きをオンラインで行いたい場面です。たとえば確定申告をe-Taxで行おうとしても、マイナンバーカードの電子証明書がなければ本人認証ができません。この場合、納税管理人を通じて紙ベースで手続きすることになり、手間も時間もかかります。
また、帰国したタイミングでも不便は残ります。銀行口座の開設や各種契約の本人確認でマイナンバーカードの提示を求められる場面は多く、手元にカードがないと他の身分証明書での代替を求められることになります。
帰国後の再取得の流れ
帰国して転入届を提出すれば、マイナンバーカードは改めて申請できます。番号自体は以前と同じものが引き続き使えるため、番号が変わってしまう心配はありません。
ただし、カードの発行には申請から一定の期間がかかります。帰国直後にすぐカードが必要になる場面、たとえば銀行口座の手続きなどでは、運転免許証やパスポートなど他の身分証明書で対応する必要が出てくる可能性があります。この点は、帰国のスケジュールを考えるうえでも頭に入れておきたいところです。
なお、国外転出後90日以内であれば無料でカードの交付申請ができますが、90日を超えると所定の手数料がかかる場合があります。自治体によって運用が異なるため、詳細は転出元の市区町村にご確認ください。
海外にいながらカードを申請する方法
2024年5月の改正により、日本に帰国しなくても、在外公館(大使館・総領事館)でマイナンバーカードを新たに申請できるようになりました。対象は、日本国籍を持ち、2015年10月5日以降に国外転出届を提出した方です。
2026年5月26日からは、この申請手続きはオンライン専用の申請サイトに一本化されており、在外公館の窓口での紙の申請はできなくなっています。カードの受け取りは、引き続き在外公館の領事窓口で行います。帰国の予定がない方でも、マイナンバーカードを取得する手段があるということは、覚えておいて損はありません。
出典:マイナンバーカード総合サイト「国外転出者向けマイナンバーカードのオンライン交付申請システムの運用開始について」
4. 海外移住前にやっておくべきマイナンバー関連の手続き

ここからは、海外移住前にやっておくべき、マイナンバー関連の実務を具体的に見ていきます。
転出届とマイナンバーカードの手続き
海外転出届の提出、マイナンバーカードの継続利用申請、電子証明書の更新は、同一窓口・同一タイミングで一体的に処理されます。転出届を提出する際にマイナンバーカードと国外継続利用申請書を持参すれば、窓口でまとめて手続きが完了します。必要書類は自治体によって多少異なるため、事前に自治体の公式サイトで確認しておくとスムーズです。海外転出届そのものの詳しい手続きについては、別記事でも整理していますので、あわせてご確認ください。
銀行口座・証券口座への影響
マイナンバーは、税金の話だけでなく金融機関との関係にも及びます。非居住者になると、一部の金融機関では口座の利用に制限がかかる場合があります。マイナンバーの届出義務も金融機関によって扱いが異なるため、出国前に確認しておく必要があります。
証券口座についても注意が必要です。NISA口座は非居住者になると新規の買付ができなくなるなど、扱いに制約が出てくるケースが多くあります。NISA口座の詳しい扱いについては、非居住者とNISAの関係を解説した記事で整理していますので、証券口座をお持ちの方はあわせてご確認ください。
確定申告・納税管理人との関係
非居住者になっても、日本国内に不動産所得などがある場合は、引き続き確定申告が必要になります。その際、e-Taxを利用するにはマイナンバーカードの電子証明書が必要です。カードの継続利用手続きを済ませていれば、海外からe-Taxを使える可能性がありますが、対応状況は国税庁のサイトで確認しておくことをおすすめします。継続利用の手続きをしていない場合は、納税管理人を通じた紙ベースでの申告になります。海外移住と税金全体の関係については、海外移住と税金の全体像を整理した記事で詳しく解説しています。
事業を持って海外に出る場合、こうした手続きを後回しにしてしまうと、確定申告のタイミングで慌てることになりかねません。自分の事業を自分の意思で動かし続けるためにも、税務や金融まわりの手続きは出国前に一つずつ片づけておくことが、事業を長く続けていくための土台になります。
5. 海外移住後もマイナンバーで注意すべきポイント

最後に、海外に住み始めてからも関わり続ける、マイナンバーにまつわる注意点を2つお伝えします。
番号自体は一生変わらない
マイナンバー(個人番号)は、海外に何年住んでいても、帰国すればそのまま同じ番号が使えます。とはいえ、番号を確認する手段は限られている点には注意が必要です。マイナンバーの通知に使われていた「通知カード」は2020年5月に廃止されているため、番号を確認できるのは、マイナンバーカードか、番号が記載された住民票の写しに限られます。出国前に、ご自身の番号を控えておくことをおすすめします。
海外の金融機関からの報告制度(CRS)
海外で銀行口座を開設する際、マイナンバーに相当する納税者番号(TIN)の提出を求められることがあります。これはOECDが主導するCRS(共通報告基準)という、国際的な情報交換の枠組みに基づくものです。
CRSのもとでは、海外の金融機関にある口座の情報が、各国の税務当局間で自動的に共有される仕組みが整えられています。海外に資産や口座を持っているからといって、日本の税務当局から見えなくなるわけではありません。海外での資産や所得についても、きちんと申告しておく必要があるということは、海外移住とマイナンバーを考えるうえで忘れずにいたいポイントです。
6. まとめ|海外移住とマイナンバーの手続きを出国前に整える

ここまでの内容を振り返ります。
① マイナンバー(番号)は海外転出しても消えません。一生同じ番号を使い続けることができます。
② 2024年5月の法改正により、海外転出後もマイナンバーカードの継続利用が可能になりました。継続利用を希望する場合は、転出届の提出と同時に手続きを済ませておく必要があります。
③ 銀行口座、確定申告、CRSによる金融機関の情報交換など、マイナンバーが関わる場面は海外在住になっても続きます。出国前に整理しておくことをおすすめします。
海外移住とマイナンバーの手続きは、細かく見えて一つひとつが後々の暮らしに関わってきます。出国してから慌てるのではなく、出口から逆算して、必要な手続きを出国前に一通り済ませておく。それが、落ち着いて新しい生活を始めるための土台になります。
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