海外移住が決まると、ビザや住居の手配に気を取られがちですが、見落としてはいけないのが税金の手続きです。移住後に日本での確定申告が必要かどうかは、多くの方が漠然とした不安を抱えたまま出国日を迎えてしまうテーマでもあります。
結論から言えば、移住後に「非居住者」となっても、日本国内に源泉のある所得がある限り、確定申告の義務は残ります。この記事では、海外移住後の確定申告が必要になるケースと不要になるケース、居住者・非居住者の判定基準、そして非居住者が申告を行う際の実務的な流れを、税務署の公式情報に基づいて整理します。
目次
※本記事の税制・手続きに関する情報は2026年7月時点のものです。税制は改正される場合があります。ご自身の状況への適用については、必ず 国税庁公式サイト または税理士にご確認ください。
海外移住したら確定申告は必要か|結論は「場合による」

原則は非居住者になれば全世界所得課税が終わる
日本の所得税は、居住者か非居住者かによって課税される所得の範囲がまったく異なります。居住者は、日本国内・国外を問わずすべての所得(全世界所得)に課税されるのに対し、非居住者は日本国内で生じた所得、いわゆる国内源泉所得のみが課税対象になります。
つまり、海外移住によって非居住者になれば、海外で得た給与や事業所得について日本で課税されることは原則としてありません。「海外移住したら日本の税金からすべて解放される」というイメージは、この点においては大きく間違っているわけではありません。ただし、これはあくまで「国内源泉所得がなければ」という前提付きの話です。国内に源泉のある所得が残っている限り、非居住者になった後も申告義務は続きます。この点は次章以降で詳しく見ていきます。
出典:国税庁「No.2010 納税義務者となる個人」、国税庁「No.1920 海外勤務と所得税額の精算」
出国した年の確定申告は原則必要
海外移住をする年、つまり出国する年については、多くの方に確定申告(準確定申告)が必要になります。出国日までに給与所得以外の所得がある場合や、給与収入が2,000万円を超える場合などは、出国前に確定申告を済ませておく必要があります。
出国前に確定申告を終えられない場合は、日本国内に「納税管理人」を選任して届け出ることで、翌年の通常の確定申告期限(3月15日)までに申告を行うことも可能です。納税管理人を立てずに出国してしまうと、期限内の申告や還付の受け取りがスムーズにいかなくなる可能性があるため、出国前の段階で方針を決めておくことが望ましいと考えられます。
「居住者」と「非居住者」の判定基準

所得税法上の定義は住所または1年以上の居所
所得税法上、「居住者」とは国内に住所を有し、または現在まで引き続き1年以上居所を有する個人と定義されています。それ以外の個人が「非居住者」に区分されます。
ここでいう「住所」とは、単に住民票を置いているかどうかではなく、生活の本拠、つまり実際にどこで生活の中心を営んでいるかという実態で判断されます。住民票を海外に移していなくても、生活の実態が海外にあると認められれば非居住者と判定されることもあれば、逆に住民票を抜いていても生活の実態が日本に残っていれば居住者と判定される可能性もあります。形式ではなく実態に基づく総合判断であるという点は、正確に理解しておく必要があります。
「183日ルール」の誤解を正す
海外移住や海外勤務の話になると必ずと言っていいほど登場するのが「183日ルール」です。「海外に183日以上いれば非居住者になる」という理解が広まっていますが、これは正確ではありません。
183日ルールは、多くの租税条約に定められた「短期滞在者免税」(給与所得条項、OECDモデル租税条約15条2項相当)の判定基準です。これは、短期間の海外出張等で受け取る給与について、一定の要件を満たせば滞在先の国で課税されないという規定であり、居住者・非居住者を振り分ける「タイブレーカー規定」(恒久的住居の場所→利害関係の中心→常用の住居→国籍の順で判定する条項)とはまったく別のものです。日本の所得税法上の居住者・非居住者の判定は、前述のとおり住所や生活の本拠という実態に基づいて行われるものであり、滞在日数だけを機械的に当てはめる制度ではありません。183日という数字だけを根拠に「自分はもう非居住者だ」と判断してしまうと、実際の課税関係とずれてしまう可能性があります。
POINT|183日は「租税条約の短期滞在者免税」の基準であって、居住者判定そのものの基準ではない
海外移住後の税務ステータスは、滞在日数の数え方ではなく、生活の本拠がどこにあるかという実態で判断されます。不安な場合は、滞在日数だけで自己判断せず税理士に確認することをおすすめします。
海外移住後も確定申告が必要になる代表的なケース

海外移住によって非居住者になったとしても、日本国内に源泉のある所得が残っていれば、確定申告義務はなくなりません。代表的なケースを整理します。
不動産所得(賃貸収入)がある場合
日本国内に賃貸用の不動産を保有し続けたまま海外へ移住するケースは少なくありません。この場合、家賃収入は国内源泉所得に該当し、非居住者であっても課税対象になります。
実務上は、賃借人(法人の場合が主)が家賃を支払う際に20.42%の税率で源泉徴収を行う仕組みになっています。ただし、源泉徴収されているからといって申告義務がなくなるわけではなく、確定申告を行うことで、必要経費(管理費・修繕費・減価償却費等)を差し引いた実際の所得に応じた税額を精算し、源泉徴収された分との差額の還付を受けられる場合があります。賃貸収入がある方は、確定申告をしないことでかえって還付機会を逃してしまう可能性もある、という点は知っておく価値があります。
役員報酬・日本法人からの給与がある場合
日本法人の役員を務めながら海外移住する方も増えていますが、非居住者となった役員が受け取る役員報酬は、実際にどこで職務を行っているかにかかわらず国内源泉所得として扱われる点に注意が必要です。海外の支店長など、使用人としての立場で常時海外で勤務している場合は例外的な扱いになりますが、役員としての報酬である限り、原則として20.42%の税率で源泉徴収の対象になります。
「海外に住んでいるのだから日本の給与に日本の税金はかからないはず」という思い込みは、役員報酬に関しては当てはまらないケースが多いため、法人の役員を続けながら移住を検討している方は特に確認しておくべきポイントです。
株式譲渡・配当(国内証券口座)がある場合
日本国内の証券口座を保有したまま海外移住する場合、株式の譲渡益や配当についても国内源泉所得として扱われるものがあり、課税関係が生じることがあります。保有資産の規模によっては、出国時に別の制度である「出国税(国外転出時課税制度)」の対象になる場合もあるため、両者を混同しないよう注意が必要です。
出国税については、こちらの記事で詳しく解説しています。
その他(退職金・年金・生命保険金・相続)
このほかにも、日本国内で受け取る退職金、公的年金、生命保険の満期金や解約返戻金、相続によって取得した国内財産などは、それぞれ個別のルールに基づいて非居住者にも課税関係が生じうる所得です。移住前に保有している資産や契約を棚卸しし、どの所得が国内源泉所得に該当しうるかを事前に確認しておくことが望ましいと考えられます。
非居住者の確定申告の進め方|納税管理人の選任

納税管理人とは何か・誰を選べるか
非居住者が日本国内で確定申告や納税の手続きを行う場合、「納税管理人」を選任して税務署に届け出る必要があります。納税管理人とは、非居住者に代わって申告書の提出や税務署とのやり取りを行う代理人のことです。
納税管理人には、国内に住所を有する個人または法人であれば、親族や知人、税理士など幅広い立場の人を選ぶことができます。実務的には、税務の専門知識を持つ税理士に依頼するケースが多く見られますが、制度上は家族が務めることも可能です。
出典:国税庁「No.1923 海外勤務と納税管理人の選任又は解任」
確定申告の提出方法と期限
納税管理人を選任している場合、非居住者の確定申告は、通常の確定申告と同じく翌年3月15日が期限となり、非居住者本人の納税地を所轄する税務署に、納税管理人を通じて提出します。納税管理人に税理士を選任している場合は、e-Taxによるオンライン申告(代理送信)が可能なため、海外に居住しながら日本国内の手続きを進めることも現実的です。ただし、家族や知人を納税管理人としている場合はe-Taxの代理送信が利用できないケースもあるため、事前に確認しておくことをおすすめします。
出国前に申告を完了できる場合は準確定申告として出国日までに、完了できない場合は納税管理人を通じて翌年3月15日までに、という2つの選択肢があることを押さえておくとよいでしょう。
出典:国税庁「No.1920 海外勤務と所得税額の精算」、国税庁「No.1923 海外勤務と納税管理人の選任又は解任」
使える所得控除が大幅に減る点に注意
非居住者の確定申告で見落とされがちなのが、使える所得控除の範囲です。配偶者控除、扶養控除、社会保険料控除、生命保険料控除、医療費控除といった、居住者であれば当然のように適用されていた控除の多くが、非居住者になると適用できなくなります。非居住者が引き続き適用できるのは、雑損控除・寄附金控除・基礎控除の3つのみです。
これは、居住者時代の感覚のまま税額を見積もっていると、想定より納税額が大きくなるケースがあるということでもあります。国内に不動産所得や役員報酬が残る方は、非居住者になった後の控除の範囲を踏まえたうえで、実際にどの程度の税負担になるのかを事前にシミュレーションしておくことをおすすめします。
出典:国税庁「No.1926 海外勤務中に不動産所得などがある場合」
非居住者の確定申告のポイント
非居住者の確定申告は「納税管理人の選任」「申告期限(出国前 or 翌年3月15日)」「使える控除の縮小」の3点を押さえておく必要があります。特に控除の縮小は見落とされがちなため、事前の税額シミュレーションが欠かせません。
確定申告以外に見落としがちな手続き

住民税の精算(1月1日基準)
住民税は、その年の1月1日時点で日本国内に住所(住民登録)がある人を対象に、前年の所得に基づいて課税される仕組みです。年内に出国して住民票を抜けば、翌年度分の住民税は課税されないことになります。逆に、年明けに出国した場合は、その年度分の住民税の納税義務が発生する点に注意が必要です。出国のタイミングによって住民税の負担が変わってくるため、移住スケジュールを組む際には意識しておきたいポイントです。
国外転出届・マイナンバー・銀行口座
確定申告や住民税の手続きと並行して、市区町村への国外転出届の提出、マイナンバーの取り扱い、日本国内の銀行口座の維持方針なども整理しておく必要があります。これらは税務上の手続きとは別枠ですが、納税管理人とのやり取りや還付金の受け取り先として、国内の銀行口座を残しておくかどうかは実務上重要な判断になります。
出国税(国外転出時課税制度)との違い
ここまで解説してきた「非居住者の確定申告」と、1億円以上の有価証券等を保有する方を対象とした「出国税(国外転出時課税制度)」は、まったく別の制度です。出国税は対象者が限定される一方、非居住者の確定申告は国内源泉所得を持つすべての人に関わりうる、より裾野の広いテーマです。
出国税の対象者・仕組みについては、こちらの記事で詳しく解説しています。両方に該当しうる資産状況の方は、あわせて確認しておくことをおすすめします。
個人事業主として海外移住する場合の確定申告の考え方

起業ビザで移住する個人事業主に確定申告は必要か
私は移住を考える方に、就職や転職といった雇われる道だけでなく、自分で事業を作る道を検討してほしいと伝えています。起業ビザなどを使って個人事業主として海外に移住する場合、確定申告の考え方はどうなるのでしょうか。
事業の拠点や顧客が完全に海外に移り、非居住者となった後は、その事業から生じる所得は基本的に国外源泉所得となり、日本での確定申告義務は生じません。ただし、日本の顧客との取引が残っていたり、日本国内に事業の拠点や資産が一部残っていたりする場合は、その部分が国内源泉所得と判定される可能性があります。「海外に拠点を移したから日本の税金は一切関係ない」と単純に考えるのではなく、事業のどの部分が国内に紐づいているかを、移住前の段階で整理しておくことが重要です。
節税のためにどの国を選ぶかという発想ではなく、まず税制を正しく理解したうえで、心から住みたいと思える国で事業を育てていく。これが本質的な順番だと私は考えています。
現地国側の税務申告との両建て意識
もう一つ、個人事業主として海外移住する方が特に見落としやすいのが、移住先の国側での税務申告です。日本での確定申告が不要になったとしても、それは「無税になった」ことを意味するわけではありません。移住先の国の税法に基づいて、その国での納税義務が新たに発生するのが通常です。
近年は、CRS(共通報告基準)と呼ばれる国際的な金融口座情報の自動交換の枠組みが各国間で運用されており、海外の金融口座情報が税務当局間で共有される仕組みが整っています。「日本に申告しなければ税務当局に知られない」という考え方は、この情報交換の実態を踏まえると、重大な誤解であると言わざるを得ません。日本側と移住先側、両方の税務申告を正しく行うという両建ての意識を持つことが、海外で事業を育てていくうえでの前提になります。
まとめ|海外移住後の確定申告は「非居住者」判定から逆算する

海外移住後の確定申告について、ここまでの内容を振り返ります。
① 非居住者になれば全世界所得課税は終わるが、国内源泉所得がある限り申告義務は残る
② 居住者・非居住者の判定は「住所または1年以上の居所」という実態に基づく判断であり、183日という日数だけで機械的に決まるものではない
③ 不動産所得・役員報酬・株式譲渡・退職金など、日本国内に源泉のある所得は非居住者になった後も課税対象になりうる
④ 非居住者の確定申告には納税管理人の選任が必要で、使える所得控除が大幅に減る点にも注意が必要
⑤ 個人事業主として移住する場合も、日本側・移住先側の両方の税務を正しく理解しておく必要がある
節税のために国を選ぶのではなく、住みたい国で正しく税を納めながら、事業を育てていくこと。それが、出たとこ勝負にならない海外移住の始め方だと私は考えています。
海外移住を「いつか」で終わらせないために。
ヨーロッパで開催した勉強会の特別講義を、公式LINEで公開しています。
180分超の特別講義・動画集・ロードマップ資料で
海外で継続的に収益を作る方法
後悔しない移住先の選び方
ビザ戦略
を解説しています。
海外移住や場所に縛られない生き方を実現したい方は、
公式LINEから無料で受け取ってください。













