正解を覚える勉強より、自分で考える学び方を子どもに身につけてほしい。そう思って、海外の学校に目を向ける親御さんが増えています。ただ、教育移住とは何かという説明は見つかっても、子どもが実際にどんな学校に通い、日本語や日本の学校との関係がどうなり、将来どこへ進むのかまでは見えにくいものです。
私はヨーロッパ在住10年で、娘はスイスのインター校、日本の小学校、イギリスの学校で育ちました。教育移住とは、子どもの学ぶ環境を主な理由に、家族で生活の拠点を移すことです。この記事では、海外移住で子どもの教育に何が起きるのかを、学校・言語・進路の3つに絞って、文部科学省などの公的情報と私の経験からお伝えします。国選びと親の考え方は、教育移住とは?後悔しないための国選びと親が知るべき考え方にまとめています。
目次
※本記事の学校制度・在留資格・学費の情報は、2026年10月時点で各国政府・文部科学省などが公表しているものに基づいています。制度や学費は変わることがあります。渡航・入学の前に、各国の政府・学校・大使館の公式情報と専門家で最新情報をご確認ください。
1. 教育移住とは:子どもが海外で学ぶ4つの場

教育移住の意味と、国内の教育移住との違い
教育移住とは、子どもの学ぶ環境を主な理由に、家族で生活の拠点を移すことです。進学や受験のための一時的な引っ越しとは違い、子どもが学ぶ場所そのものを変える決断を指します。国内の地方へ移る形も同じ言葉で呼ばれることがありますが、この記事では海外への教育移住を扱います。
海外に移る場合は、住む国が変わるため、学校だけでなく、言語や在留資格、日常の暮らしまで変わります。教育移住は、学校選びの話であると同時に、家族の暮らし方を選ぶ話でもあります。
教育移住で子どもが通う学校は大きく4つ
海外で暮らす子どもが学ぶ場は、大きく4つに分かれます。
① 現地の公立校:その国の言語で、現地の子どもたちと同じ学校に通います。学ぶ内容も取る資格も、その国の教育制度に沿ったものになります。
② 公的な補助で学費を抑えた国際バカロレア(IB)校:IBは世界共通の教育プログラムで、国や学校によっては、公的な補助で学費が抑えられたIB校もあります。
③ 私立のインターナショナルスクール:英語などで授業を行う私立の学校です。IBのほか、イギリスやアメリカのカリキュラムで学ぶ学校もあり、学費は学校によって大きく変わります。
④ 在外教育施設:海外に住む日本人の子どものために、日本の学校に準じた教育を行う施設で、日本人学校や補習授業校があります。
この4つの場は、学ぶ言語、学費の傾向、修了資格の例がそれぞれ違います。海外の学校といえばインターナショナルスクールを思い浮かべる方が多いのですが、教育移住で子どもが通う学校はそれだけではありません。
教育移住中の日本の義務教育と在外教育施設
日本国憲法が定める義務教育は、海外で暮らす日本人の子どもには直接適用されません。文部科学省によると、在外教育施設は日本人学校、補習授業校、私立在外教育施設に分けられます。国は憲法の精神に沿って、在外教育施設への教員の派遣や、国内の義務教育の教科書の無償給与などの支援を行っています。この支援は小学部・中学部が中心で、幼稚園段階や高校段階への支援は現状では難しいとされています。
外務省の調査では、2025年10月1日現在、海外に住む日本人は、長期滞在者と永住者を合わせて1,298,170人です。海外で暮らす家族の中で、子どもの教育をどこで続けるかは、4つの場のどれを組み合わせるかで決まっていきます。
※出典:文部科学省 CLARINET「Q&A」、外務省 海外在留邦人数調査統計
※IB校の学費や公的な補助の有無は、国や学校によって異なります。最新情報は各校と各国の教育当局でご確認ください。
2. 教育移住のメリット:子どもの学び方が変わる

教育移住のメリット:子どもの学び方はどう変わるか
ヨーロッパの学校では、議論、リサーチ、グループワークが授業の中心になることが多く、「自分はどう思うか」を問われる場面が続きます。答えが1つに決まらない問いに向き合い、自分で調べ、根拠を添えて意見を述べ、他の子の意見も聞く。正解を覚えて答えるより、考えて人に伝える時間が長い学び方です。
私の場合、娘はスイスとイギリスの学校でこの学び方に出会い、宿題が出なくても自分から学ぶようになりました。先生が良いところを認めて伸ばす関わり方だったため、日本で苦手になった数学にも、イギリスで向き合い直せました。学校が楽しいと、娘は今も話してくれます。
日本にいた頃の私は、娘に干渉して与えようとする親でした。イギリスに来てから、娘の主体性が戻っていくのを間近で見て、子どもは環境が変わると、自分で動き出すのだと知りました。
教育移住のメリット:言語が3つになることもある
海外の学校に通うと、授業で使う言語と家庭で使う言語が別になり、子どもが触れる言語が増えることがあります。さまざまな国から来た子どもが同じ教室で学ぶ学校では、言語や文化の違いを知ることが、日常になります。
私の場合、娘は日本語と英語に加えて、第3言語のスペイン語を学びました。バルセロナでは、学んだスペイン語で現地の人と話せました。イギリスの現地校でもクラスは多国籍で、いろいろな国の子どもと同じ教室で学んでいます。イギリスの学校に来てから、周りの目を気にせず、自分の軸を持つ勇気が持てたと、娘は話しています。
娘は、日本とイギリスの教育を、どちらが良いかではなく、目指すゴールが違うものだと捉えています。日本の学校には日本の学校の良さがあります。海外の学校に移ることで変わるのは、優劣ではなく、子どもが身につける学び方の方向です。
3. 教育移住のデメリット:日本語と日本の学校との接続

教育移住で日本語と日本の学習から離れていく
海外の学校に通う時間が長くなるほど、日本語で学ぶ時間は減ります。家庭や補習授業校で意識して続けないと、日本語の読み書きと、日本の学校で扱う学習内容から離れていきます。話せるのに読み書きは難しい、という状態になることもあります。日本の学校では学年ごとに学ぶ内容が積み上がっていくため、離れた期間が長いほど、日本に戻ったときの差も大きくなります。
住む地域に日本人学校も補習授業校もない場合でも、日本の学習を続ける手段はあります。文部科学省は、海外で暮らす子どもに国内の義務教育の教科書を無償で給与していて、その教科書に沿った通信教育も、文部科学省の補助を受けて海外子女教育振興財団が行っています。
日本語は、使う機会が少なくなると、語彙も文章の組み立ても伸びにくくなります。毎日の短い音読や日記のように、家庭で無理なく続けられる形を決めておくと、離れ方をゆるやかにできます。日本語を保ちながら複数の言語を育てる考え方は、バイリンガル子育てとはで詳しく解説しています。
教育移住のあと日本の学校に移るときの段差
私の場合、スイスのインター校から日本の小学校に移った時期、娘は日本の学校の学び方に馴染めませんでした。正解を覚え、間違いを直される毎日が続き、日本の小学校での4年間で、学ぶこと自体を嫌いになっていきました。スイスの学校では宿題が出なくても自分から学んでいた娘が、日本に戻ってからは、親に言われて宿題が出たときにしか、机に向かわなくなったのです。
日本の学校が悪いという話ではありません。学び方の軸が違う学校へ移るときには、段差が生まれます。学ぶ内容の違いだけでなく、授業の進め方や先生との関わり方の違いにも、子どもは戸惑います。
手続きの面では、日本国籍の子どもが日本の公立の小・中学校に戻る場合、転入の手続きをすると、市区町村から通う学校と編入の期日が通知されます。高校段階では、文部科学省の通知を受けて、都道府県の教育委員会や学校が、入試での特別枠や受け入れの配慮を設けています。日本へ戻る子どもの受け入れについては、文部科学省が帰国・外国人児童生徒教育に関する情報を公開しています。帰国の可能性があるなら、あらかじめ目を通しておくと、段差に備えやすくなります。
教育移住で友達・言語・文化がいったんリセットされる
子どもを中心に決めた移住では、友達、言語、文化をいったん手放すのは子ども本人です。そこに「この移住を成功させなければ」という親の期待の重さが乗ります。日本の教育への不満が出発点だと、移った先で何を得たいのかが定まらないまま、子どもの負担だけが大きくなることがあります。
子どものためになるかどうかと同じくらい、親である自分がその国で暮らしたいと思えるか、そこでの暮らしにワクワクできるかも、子どもが背負うものの重さを左右します。不登校をきっかけに動いた家族の例は、子どもの不登校がきっかけでオランダ教育移住を決めた家族のリアルな決断で読めます。
だからこそ、移る前に、どこで教育を終えるのかを決めておく必要があります。
※出典:文部科学省 CLARINET「Q&A」(Q8・Q9・Q11)
4. 教育移住は、教育を終える国から逆算する

教育移住は入口でなく出口で考える
教育移住では、どの学校に入るかより、どこで教育を終え、そのあとどこへ進むかが、子どもの進路を左右します。どの大学を目指すのか、将来どの国で働くのかまで見たうえで、学ぶカリキュラムを決める順番です。出口の国が変われば、必要な言語も、取るべき修了資格も変わります。
有名校、英語、治安といった条件で先に選ぶと、数年後に国を変えざるを得なくなることがあります。親が疲れてしまったり、家族の関係がきしんだりして、せっかく移った国を離れる例もあります。教育を終える国を先に決めていれば、その国で暮らす前提で、学校も在留資格も仕事も、同じ方向に揃えていけます。
教育移住先でIBか現地の資格かを選ぶ
私の場合、イギリスに永住すると決めたので、娘はインターのIBではなく、公立校でGCSEを受ける道を選びました。イギリスで教育を終えるなら、現地の資格であるGCSEに沿って学ぶほうが筋が通ると考えたからです。インターを選べば安心という考え方は、私はとりません。永住までの在留資格については、イギリス移住の完全ガイドでまとめています。
イングランドでは、学校の監査報告がOfstedによって公開されていて、親が学校の評価を見て選べます。私たちも報告書や学校の情報を見比べて、娘に合う学校を探しました。娘に合ったのは、そうして選んだ公立校でした。
イングランドでは、14歳から16歳の課程(Key stage 4)でGCSEを受け、多くは15歳から16歳(Year 11)で受験します。夏休みの終わりまでに16歳になる場合、その年の6月の最終金曜日から学校を離れることはできますが、18歳まではフルタイムの教育、見習い、または働きながらのパートタイム教育のいずれかを続けます。
娘は、高校にあたる6th Formの学校を、オープンキャンパスに何度も通い、先生と直接話して自分で選びました。娘が受けた選考は記述式の試験で、思考力と面接が重視されていました。私自身は偏差値で大学を決めた人間なので、先生に会って自分の進む先を確かめる娘の選び方は、私とは違う世界に見えました。親が決めた学校ではなく、自分で選んだことが、そのあとの学びに向き合う姿勢にもつながっていると感じます。
教育移住の時期は学校段階で考える
小さいうちほど、言語の切り替えの負担は比較的小さいとされます。高校段階に近いほど、どの国でどの資格を取って修了するかが進路に直結します。小学生のうちは、現地の言語に慣れていくことが中心になります。中学生は、出口の国と資格を意識し始める時期です。高校段階では、修了資格を取る学校かどうかが、そのまま進路に関わります。移る時期が遅くなるほど、選べる学校の幅や、準備にかけられる年数は限られていきます。
在外教育施設への国の支援も小学部・中学部が中心で、高校段階への支援は現状では難しいとされています。日本の教育を海外で続けたい場合も、高校段階は別に考えておく必要があります。
何歳が最適かという答えより、学校段階ごとに何が変わるかを見て、移る時期を考えるほうが現実的です。年齢別の違いは、海外移住の年齢別ガイドで詳しく解説しています。
※出典:GOV.UK Key stage 4、GOV.UK Know when you can leave school、Ofsted reports(いずれもイングランドの制度)、文部科学省 CLARINET「Q&A」(Q7)
※言語の切り替えの負担や学校段階ごとの変化は、一般的な傾向です。子どもによって違いがあります。
5. 教育移住の費用は学校の種類で変わる

教育移住の学費は私立インター・公立・公立系のIB校で違う
教育移住の学費は、国によって差があるうえに、通う学校の種類で大きく変わります。私立のインターナショナルスクールは高額になりやすく、現地の公立校や、公的な補助で学費を抑えたIB校は、それより低く収まる傾向があります。日本の教育を続ける在外教育施設も、通う場の選択肢のひとつです。国別の金額は、インターナショナルスクールの費用はどのくらい?国別の学費相場で比較しています。
私の場合、スイスとイギリスでインターの授業料を払ってきました。イングランドで公費により運営される学校に通えるかどうかは、親の在留資格とつながっています。
受講生の泊さんは、ウィーンへの教育移住を準備しています。ウィーンを選んだ理由のひとつは、月300ユーロ(€1=¥185で約5万5,500円)でバカロレア教育を受けられる学校があることでした。泊さんの体験は、ウィーンへの教育移住を準備する泊さんの体験談にまとめています。ただ、学費が抑えられることと、その国に家族で住み続けられることは別の話です。学費だけで国を決めると、在留資格や暮らしの面で行き詰まったときに、子どもの学びも途中で変わってしまうことがあります。
教育移住で学費の外にかかるお金
学費の外にも、住居費、生活費、渡航費、ビザの手続きにかかる費用があります。学校によっては、制服や教材、課外活動の費用が別にかかることもあります。学校が決まっても、家族が暮らしていける資金がなければ、子どもの卒業まで続けることはできません。
子どもが学ぶ年数は、数年にわたります。学費は毎年かかり、住居費や生活費も同じ期間かかり続けます。見積もるときは、入学時の金額だけでなく、修了までの年数で考えます。途中で学校の種類を変える場合も、費用の構造が変わることを見込んでおきます。生活費を含む資金の考え方は、海外移住の資金はいくら必要かで解説しています。
※出典:GOV.UK 海外から来た子どもの入学申請(イングランドの公費で運営される学校)
6. 教育移住を子どもの卒業まで続けるために、親が整えておくこと

教育移住で子どもが学校に通える前提は親の在留資格
教育移住を子どもの修了まで続けるために、親が整えておくことは、住み続けられる在留資格と、それを支える稼ぐ力に絞られます。イングランドの公費で運営される学校の場合、親が定住資格、就労ビザ、学生ビザのいずれかでイギリスに在留していれば、18歳未満の子どもは通常、扶養家族として入国して学校に通えます。通えるかどうかは自動的に決まるものではなく、通常は入学の申請が必要です。
逆に言えば、親の在留資格が途中で切れれば、子どもが学校に通い続ける前提も揺らぎます。在留資格の多くには期限があり、更新や永住の申請の段階では、その時点で条件を満たしているかが改めて確認されます。子どもが学校に通う数年間は、この更新を乗り越え続ける数年間でもあります。
私の場合、妻と「イギリスで生きる」と先に決め、事業を営みながら在留して、永住権までたどり着きました。その結果として、娘にはイギリスの教育が合いました。教育のために国を選んだのではなく、住み続ける土台を先に作ったから、教育の選択肢が開いたのです。親が海外で挑戦する姿を見て、娘は早く社会に出たいと話し、大変なときにも頑張れたと言ってくれました。
親の考え方については、教育移住とは?後悔しないための国選びと親が知るべき考え方に、永住権については永住権が取りやすい国ランキングにまとめています。
教育移住を支える親の稼ぐ力
在留を支えるのは、親が稼ぐ力です。雇用に結びついた在留資格は、雇用が終われば住む前提が崩れることがあります。事業で在留していれば、住み続けるかどうかを、自分の事業と決断で支えていけます。
受講生の泊さんは、カナダで暮らしながらウィーンへの教育移住を準備する中で、月30万から月295万へと歩みを進め、月50万の雇用の誘いを断りました。雇われる道ではなく、自分で事業を続ける道を選んでいます。数字だけを見ると急に見えますが、その土台には、フリーランスライターとして積み上げてきた5年間の経験がありました。
オランダに2021年に日蘭条約ビザで移住した今井さんは、子どもが現地校に通う中で、年商8桁に到達しました。体験の詳細は、子ども3人でオランダ教育移住した体験談で、本人の言葉で読めます。
どちらも、短期間で一気に作った力ではありません。地道に積み上げた先に、子どもが卒業まで学べる環境があります。
7. 教育移住についてよくある質問(Q&A)

学校には4つの種類があり、日本との接続には段差が生まれ、教育は終える国から逆算して決める。教育移住で子どもに起きることは、この3つに集まります。
私の娘は、イギリスに連れてきてくれてありがとうと、度々言ってくれます。理由は、イギリスの学校です。それでも私は、子どもの教育の正解を探し続けるより、親が自分の人生を精一杯生きる姿を見せることのほうが、子どもに残るものは大きいと思っています。子どもは、親が自分の人生をどう生きているかを、毎日見ています。
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