海外で働いてみたい。でも、現地採用は「やめとけ」という声もよく見かける。給料が下がると聞いたし、ビザや年金も不安。35歳を過ぎたら求人が減るとも言われる……。
私自身も、かつてまったく同じ気持ちを抱えていました。
私は会社員として日本本社に勤めながら海外赴任を経験し、その後イギリスで起業して「雇われない移住」に行き着きました。雇用の側も独立の側も、両方の現場を知っている立場から、現地採用の現実を出典付きで正直にお伝えします。
この記事では、現地採用のデメリット(給料・就労ビザ・年金・35歳の壁・帰国後)を構造から整理したうえで、「現地採用か、諦めるか」という二択ではなく、「稼ぐ力を持って住む」という第3の選択肢まで丁寧に解説します。
目次
1. 海外現地採用とは?駐在との違いと「ビザを取る手段」という本質
1-1. 現地採用と海外駐在(駐在員)の決定的な違い
まず「海外現地採用」という言葉を正確に定義しておきます。
現地採用とは、移住先の現地法人や現地企業に直接雇用される働き方のことです。日本の本社から「派遣される」駐在員とは、根本的に構造が異なります。
外務省の海外在留邦人数調査統計によれば、海外に長期滞在する日本人の数は年々一定数で推移しています。その中で、働き方の「器」として選ばれるのが、駐在員か、現地採用か、あるいは自分の事業を持つかという選択です。
同じオフィスで、同じ仕事をしていても、駐在員と現地採用では待遇がまるで違います。
駐在員は日本の本社に在籍したまま会社都合で派遣されます。給与は日本基準のまま維持され、住宅手当・子女教育費・帰任保証といった手厚いパッケージが付くのが一般的です。
一方、現地採用は給与・待遇・雇用契約のすべてが現地基準です。本社が日本にある会社の現地法人であっても、雇用主はあくまで現地法人であり、日本本社とは別の雇用関係が生まれます。
1-2. 現地採用の最大の意味は「就労ビザを会社に握ってもらう手段」だという視点
もう一つ、現地採用の本質として理解しておきたい重要な視点があります。
多くの国では、就労ビザは「雇用主がスポンサーになる」前提で発給されます。つまり現地採用とは、海外に住む権利を雇用主に握ってもらう構造でもあります。
言い換えれば、「海外で暮らし続けられるかどうかが、会社の判断ひとつに委ねられる」ということです。
この一点が、後の3章・4章で取り上げるリスクすべての根っこになっています。まずはこの構造を理解したうえで、現地採用という選択肢を評価してほしいと思います。
※各国のビザ制度・在留資格に関する正確な情報は、各国移民局・大使館・領事館の最新情報をご確認ください。
2. 現地採用の給料の現実|国別の相場と10年後の手取り
2-1. 国別の給与相場(未経験・経験者、東南アジア・欧州)
海外の現地採用を検討するとき、多くの方がまず気にするのが「実際いくらもらえるのか」という点でしょう。
現地採用の給与相場について、転職エージェント各社が独自データとして公開している情報では、未経験で月15〜25万円前後、経験者・スキルありで月25〜45万円前後という数字が参考値として示されています。
ただし、給与は国・職種・経験・スキル・現地物価・為替レートによって大きく変動します。
JETROが公表しているアジア・オセアニア日系企業実態調査(給与・昇給率)によれば、タイや東南アジアの日系企業現地採用の年収水準は、国・ポジション・経験によって幅が広く、額面だけで判断することは難しいとされています。欧州は物価が高い分、額面は相応に高くなりますが、税率の高さと生活コストを差し引いた手取りは思ったより少ないケースもあります。
大切なのは「いくらもらえるか」という額面だけでなく、その国の物価・税・社会保険と合わせた実質的な生活水準で比較することです。
※給与水準は国・職種・経験・為替で大きく変動します。最新・正確な数値はJETRO 各国レポート等でご確認ください。
2-2. 駐在員との待遇差(給与2〜3倍・住宅手当・帰任)
同じ職場で隣に座る駐在員と、現地採用では、処遇の差が驚くほど大きいケースがあります。
一般的に、駐在員の給与は現地採用の2〜3倍規模になりやすいと言われています。それに加え、住宅手当・子女教育費補助・帰任旅費・海外勤務手当など、手厚いパッケージが付くことが多いです。
現地採用にはこれらが基本的に付きません。「同じ仕事をしているのに、なぜこれだけ差があるのか」と感じる方も少なくないのが実態です。
この待遇差は、制度設計上の問題でもあります。駐在員は日本の雇用契約・給与体系を維持したまま派遣されているため、日本基準の給与保護が働きます。一方、現地採用は現地基準で雇用されるため、その国の給与水準が適用されます。
2-3. 「下がった給料」が10年後にどう効いてくるか
給料の差は、単月で見るとそれほど大きくなくても、10年という時間軸で見ると貯蓄・キャリア・年金の複数方面で差が積み重なります。
たとえば、日本で働き続けた場合と、給与が現地水準まで下がった現地採用で10年働いた場合を比較すると、累積の収入差・貯蓄差・老後への影響は小さくありません。
さらに問題なのは、年金の空白(3章で詳述)や、帰国後のキャリア評価(4章で詳述)も絡んでくる点です。「今の手取り」だけで現地採用の損得を判断すると、10年後に後悔する可能性があります。
これは現地採用を頭ごなしに否定しているのではなく、事実として知っておいてほしいことです。
3. 「やめとけ」と言われる3大構造リスク|ビザ・35歳・年金
海外現地採用に「やめとけ」という声が多い理由は、感情論や嫉妬ではありません。給料・ビザ・年金・35歳という4つの軸に、構造的なリスクが潜んでいるからです。ネット上の記事の多くが感情論で終わらせているこの部分を、出典付きで整理します。
3-1. 就労ビザが会社に紐づく=解雇でビザが消える
現地採用の最大の構造リスクがここにあります。
多くの国では、就労ビザは「雇用主がスポンサーになる」前提で発給されます。そのため、解雇・退職・会社の倒産・撤退によって雇用関係が消えると、ビザの根拠も同時に失われます。
国によっては、失職後に一定の猶予期間(例として14日程度が設けられているケースも報告されています)が設けられており、その間に次の雇用先を見つけるか、出国を求められることがあります。
つまり、海外に住み続けられるかどうかが、会社の判断ひとつで決まるのです。リストラ・事業撤退・人員整理は、自分の意思や実績とは無関係に起きます。それが「ビザの消滅=住む権利の喪失」に直結する構造は、現地採用を選ぶ前に直視すべき現実です。
※就労ビザの条件・猶予期間は国・ビザ種別によって異なり、制度は頻繁に改定されます。必ず各国移民局・大使館の最新情報をご確認ください。参考:外務省 海外安全・在留関連
3-2. 35歳の壁|現地採用の求人が年齢で激減する構造
35歳を過ぎてからの海外現地採用に不安を感じている方は少なくありません。実際、現地採用の求人市場は年齢によって大きく変わります。
現地採用の求人は、語学力・専門スキルが磨かれている若年層や即戦力に集中しやすい傾向があります。35歳を超えると、応募できる求人の数が構造的に絞られてきます。
これは日本の転職市場と似た構造ですが、現地採用では「年齢+語学+現地経験なし」という三重のハードルが重なることもあります。
雇用という器の中では、年齢は採用側の評価基準として働きます。一方、自分の事業を持つ道では、年齢は採用バイアスの外に置かれます。この対比が、5章の第3の選択肢を考えるうえで重要な視点になります。
3-3. 国民年金の空白=老後ゼロ年金リスク
海外で現地採用として働く場合、年金の扱いは多くの方が見落としがちな落とし穴です。
海外居住中・現地採用中は、日本の厚生年金から外れます。そして国民年金は任意加入の扱いになります。任意加入をしないと、海外在住期間は年金の納付期間に空白が生まれます。
日本の老齢基礎年金を受け取るには、原則として納付期間が通算10年以上必要です(受給資格期間)。海外在住が長くなるほど、この10年を満たせなくなるリスクが高まります。
さらに、社会保障協定を締結している国との間では扱いが変わる場合があります。しかし協定のない国では、現地の年金制度と日本の年金制度が二重に適用されることがあり、最終的にどちらからも十分な受給ができない事態も起こりえます。
「今の手取りが変わらないから大丈夫」と思っていると、老後に受け取れる年金がほぼゼロという現実に直面する可能性があります。
※国民年金の任意加入・受給資格・社会保障協定の詳細は、日本年金機構 海外居住者と国民年金、厚労省 社会保障協定でご確認ください。個別状況によって異なるため、最寄りの年金事務所へのご相談をお勧めします。
POINT|3大構造リスクのまとめ
① 就労ビザは会社に紐づく。解雇・倒産でビザが消え、住む権利を失いうる。
② 現地採用の求人は35歳前後から構造的に減る。雇用の土俵では年齢が不利に働きやすい。
③ 国民年金は任意加入。空白を放置すると老後の受給がほぼゼロになりうる。
4. もう一つの現実|ガラスの天井・会社倒産・帰国後の三重苦
3章で整理した構造リスクに加えて、現実に海外現地採用で働いた人たちが直面する「もうひとつの壁」があります。帰国後のキャリアや生活への不安を感じている方に、ここで正直にお伝えします。
4-1. 日系現地採用のガラスの天井(管理職になれない構造)
日系企業の現地採用で働く場合、組織構造上の壁が存在することが多いです。
日系企業の海外拠点では、管理職・意思決定層には日本本社からの駐在員が就くケースが一般的です。現地採用がどれだけ成果を出しても、本社管理職層への道は限られています。
労働政策研究・研修機構(JIL)の研究でも、海外日系企業における現地化の課題、いわゆる「ガラスの天井」問題は長年指摘されてきたテーマです。「どれだけ頑張っても、管理職の椅子は駐在員のもの」という状況が続くと、モチベーションや長期的なキャリア設計に影響します。
参考:JIL 労働政策研究・研修機構 海外労働関連論文
4-2. 最悪シナリオ:会社倒産→ビザ消滅→強制帰国
3章で触れたビザの構造リスクが最悪の形で現れるのが、勤務先の倒産・事業撤退のケースです。
自分の実績・行動・意思とは無関係に、会社が経営判断として撤退を決めることがあります。そうなると、就労ビザの根拠が消え、短期間で帰国を迫られます。
住居・子どもの学校・生活基盤、そして積み上げてきた現地でのネットワークや環境、そのすべてが一気に崩れるリスクがあります。「移住の継続が、自分のコントロール外の経営判断に握られている」という構造的な脆さが、このシナリオで最も鮮明になります。
4-3. 帰国後のデメリット(年収・キャリア評価・空白期間)
海外現地採用を経て帰国した後のキャリアに対する不安には、現実的な根拠があります。
現地採用の経歴が日本の転職市場でどう評価されるかは、業種・職種・採用企業の方針によって異なりますが、「海外で何をしていたか不明瞭」と見られるリスクはゼロではありません。特に、現地採用の職種が日本のキャリアと断絶している場合や、管理職経験がない場合は評価が難しくなることがあります。
また、現地採用期間中は現地の給与水準で生活していたため、帰国後に日本の給与水準への接続に時間がかかることもあります。年金の空白と合わせると、「帰国後に何も残っていなかった」という状況になりかねません。
これは現地採用をすべて否定しているのではありません。「知らずに飛び込んだ場合のリスク」として、正直にお伝えしたいのです。
5. 海外現地採用だけが道じゃない|「稼ぐ力を持って住む」第3の選択肢
ここまで4章分かけて、現地採用の現実をお伝えしてきました。ここからが、この記事で最も伝えたいことです。
そもそも、あなたが海外に住みたい理由は何でしょうか。「海外の会社に採用されること」そのものが目的だったでしょうか。
おそらく違うはずです。好きな国で、自分らしく、長く暮らし続けることが本当の目的ではないでしょうか。
であれば、会社に雇ってもらう必要すらない、という発想が生まれてきます。
現地採用のリスクが、この選択肢でどう変わるか
「稼ぐ力を持って住む」、つまり自分の事業・スキルを持って海外に住むという第3の選択肢を取ると、これまでの章で挙げたリスクが一つひとつ反転します。
① 給料の壁:自分で稼ぐ仕組みを持てば、現地水準の給与テーブルに縛られません。収入の天井を自分で決められます。
② ビザ問題:個人事業主として自営業者向けビザを取得する道があります。たとえばオランダには日蘭通商航海条約に基づく自営業者ルートがあり、会社に紐づかないビザで在留資格を維持できる可能性があります。ポルトガルのD7ビザも長期居住を目的とした選択肢として知られています。会社が倒産しても、ビザの根拠は自分の事業にあるため、解雇による強制帰国リスクがなくなります。
③ 35歳の壁:自分のビジネスに、他者の採用バイアスは関係ありません。年齢で求人が消えることはありません。
④ 年金リスク:自分で収入源を持ち、適切な年金・保険設計ができれば、老後を他人の制度任せにしない設計が可能です。
⑤ 帰国リスク:自分の事業は、他人の経営判断で消えません。住む国を変えても、ビジネスを継続できます。
※個人事業主ビザの要件・条件は国・時期によって異なり、頻繁に改定されます。必ず各国移民局・大使館の最新情報をご確認ください。参考:オランダ 移民局 IND
最初から永住権まで逆算して設計する
私が最も大切だと思うのは、「行ってから考える」のではなく、最初から出口(永住権・長期居住)まで逆算して設計することです。
個人事業主ビザで入国し、数年間居住実績を積む。その実績をもとに永住権を取得し、さらにEU長期居住資格へとつなげていく。こういった設計の仕方を、最初に知っているかどうかで、10年後の結果が大きく変わります。
私自身、会社員として海外赴任を経験し、雇用される側の現実を身をもって知りました。そのうえで最終的にイギリスで起業し、「雇われない移住」に行き着きました。赤字の時期もありましたし、試行錯誤の連続でした。それでも、「移住の継続が自分のコントロールの中にある」という感覚は、雇用のときとは根本的に違います。
ただし、短期間で一気に結果を出そうとする道ではありません。事業も移住も、地道に積み上げていくものです。焦って成長スピードを早めすぎると、必ずどこかで崩れます。ゆっくり確実に、自分の土台を固めていくことが、結局いちばん強い。それが私の実感です。
POINT|第3の選択肢の核心
海外で最初に考えるべきは「どこに採用されるか」ではなく「どこでも稼げる自分をどうつくるか」です。稼ぐ力が先にあれば、住む国を自分で選べます。
6. それでも海外現地採用を選ぶなら|後悔しない3つの条件
現地採用を一律に「やめとけ」と言いたいわけではありません。語学力を磨く・現地の人脈を作る・特定の業界経験を積む、といった明確な目的があれば、現地採用は有効な選択肢になりえます。
「それでも経験として現地採用を選ぶ」という方に、後悔しないための3つの条件をお伝えします。
条件1【期限を決める】
現地採用は「一生いる前提」ではなく、「○年で何を得て、次へ行くか」を入社前に決めることが大切です。語学・現地ネットワーク・特定の実務経験を取りに行く期間として割り切る。これだけで、ビザリスクや給料問題への向き合い方が変わります。
条件2【収入を複線化する】
給料一本に依存しないことが、最大のリスクヘッジです。在職中から自分の事業・スキル収入の柱を育てておく。「雇用に頼らなくても住める状態」を少しずつ作っていくことが、万一のビザ消滅・倒産に対する最大の備えになります。
条件3【出口戦略を入社前に設計する】
「解雇・倒産でビザが消える」という前提で、次の選択肢を最初から描いておくことです。次の雇用先を探すルート、個人事業主ビザへの切り替え、帰国後のキャリアプラン。この設計を入社前に持っているかどうかが、3〜4章のリスクを「想定内」にするかどうかを分けます。
現地採用は「ゴール」ではなく「通過点」として設計すれば、リスクを抑えながら経験に変えることができます。
7. 海外現地採用に関するよくある質問(Q&A)
まとめ|海外現地採用の現実と、後悔しないための選択肢
この記事で整理してきたことを振り返ります。
現地採用の現実として、以下の点をお伝えしました。
① 現地採用とは:移住先の現地企業に直接雇用される働き方。就労ビザを会社に握ってもらう構造でもある。
② 給料の現実:国・職種・経験・為替で大きく変動する。駐在員との差が2〜3倍規模になりやすく、10年の時間軸では貯蓄・年金・キャリアの複利で差が開く。
③ 3大構造リスク:就労ビザの会社依存(解雇=ビザ消滅)、35歳前後からの求人減少、国民年金の空白によるゼロ年金リスク。
④ 三重苦:ガラスの天井(管理職になれない構造)、倒産・撤退による強制帰国リスク、帰国後のキャリア評価の難しさ。
⑤ それでも選ぶなら:期限を決める、収入を複線化する、出口戦略を入社前に設計する、の3条件。
そして何より伝えたかったのが、第3の選択肢です。「現地採用か、諦めるか」という二択に縛られる必要はありません。
海外で暮らし続ける主導権は、「誰に採用されるか」ではなく、「自分で稼げるか」で決まります。稼ぐ力を先に持てば、住む国を自分で選べます。雇用の採用バイアスも、ビザの会社依存も、年齢の壁も、関係なくなります。
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※本記事に記載のビザ・年金・給与情報は執筆時点の情報をもとにしています。制度は頻繁に改定されるため、最新・正確な情報は各国移民局・大使館・日本年金機構・JETRO等の公式情報、および専門家にご確認ください。






