仕事・ビジネス

海外起業は「企業向け(BtoB)」から始めるのが近道|理由と始め方を解説

「海外で起業する」と聞くと、SNSでフォロワーを集めてコンテンツを販売する姿を思い浮かべる人が多いのではないだろうか。しかし、海外で億単位の事業を築いた経営者たちに共通しているのは、最初に企業向け、つまりBtoB(Business to Business)のビジネスから入っていることだ。

本記事では、海外起業でBtoBから始めるのが合理的な理由と、具体的な始め方を解説する。

※本記事に登場する数字や事例は特定の個人・企業の実績であり、個々の事業環境によって結果は異なります。

1. 海外起業でBtoBを勧める理由

契約書を交わすビジネスの手元

企業は「売上が上がるなら投資する」

海外で事業を作ろうとするとき、多くの人が最初にコンテンツ販売や個人向けのサービスを思い浮かべる。SNSで発信し、ファンを作り、商品を売る。イメージしやすい分、参入する人も多い。

しかし、繰り返し伝えたいのは、企業相手のビジネスの方が事業を作りやすいという事実だ。

「一般のお客さんからお金をもらった経験がありますか。ほとんどの方はないと思います。でも企業からお金をもらった経験、つまり給料としてもらった経験は、ほぼ全員が持っているはずです」

企業には、あらかじめ事業のための予算がある。売上が上がる見込みがあれば、外注や投資という判断を合理的に下せる。一方、個人客が財布を開くときに動くのは「これは自分の人生を変えてくれる」という感情だ。信頼やブランド力を積み上げるまでに時間がかかり、財布の紐も固い。

企業は「売上が上がるなら投資する」という合理的な判断で動く。だからこそ、実績や知名度がまだない起業したての段階でも、価値を証明できれば契約に至りやすい。

たとえば、集客が伸び悩んでいる企業は「そろそろ広告の運用を任せられる人を探そうか」と考える。顧客管理が紙ベースのままの企業は「仕組みを整えてくれる人はいないか」と探す。こうした外注ニーズは、特別なことではなく日常的に発生している。企業側にとっては、投資した分だけ売上という形でリターンが返ってくるかどうかが判断基準になるからだ。

BtoCは「全国大会」、BtoBは「地区大会」から始められる

この違いを、スポーツの大会にたとえて説明する。

BtoC(個人向け)はいきなり全国大会に出場するようなもの。BtoB(企業向け)は、まず地区大会から始められる。

個人客に向けたビジネスは、SNSのアルゴリズムに乗った瞬間に世界中の発信者と比較される。強い人がさらに強くなる、いわゆる勝者総取りの世界だ。

一方、企業には規模の大小がある。大企業は大手代理店に依頼できるが、予算の小さい中小企業やスタートアップは、フリーランスや個人の外注先を探している。つまり、企業向けのビジネスには、最初から「小さく始められる市場」が用意されている。

一社に価値を証明できれば、その実績を持って次の企業に提案できる。全員が給料として企業からお金をもらった経験がある一方、個人客からお金をもらった経験がある人はごくわずかだ。心理的なハードルの低さも、海外起業でBtoBを勧める理由のひとつになっている。

もうひとつ、覚えておきたいことがある。企業向けのビジネスで結果を出せる人は、個人向けのビジネスでも大抵うまくいく。逆に、個人向けのビジネスだけできて企業向けはできない、というケースは少ない。BtoBは、提案・進行管理・成果の言語化といった仕事の基本を明確に鍛えられる領域だからだ。この関係は、3章で改めて取り上げる。

2. BtoBビジネスの具体的な始め方

パソコンで作業する女性の手元

企業からお金をもらう経験を活かす

会社員時代、多くの人は毎月給料という形で企業からお金を受け取ってきた。この経験は、実はそのままBtoBビジネスの土台になる。

自分が会社員として担当していた業務の一部を、フリーランスとして外注先の立場で請け負う。これがBtoBビジネスのもっとも始めやすい入り口だ。マーケティング、翻訳、デザイン、コンサルティングなど、企業が外部に発注するジャンルは幅広い。

海外に住んでいること自体が付加価値になるケースも多い。現地市場の知見、語学力、時差を活かした稼働。日本にいては提供しにくい価値を、海外にいるからこそ出せる場面がある。最初の案件は小さくていい。まずは一件、企業の課題を解決する経験を積むことが、次の案件につながっていく。

海外で企業に提供できる価値とは

海外在住者が企業に提供できる価値には、いくつかの型がある。

① 現地市場のリサーチ・マーケティング支援。現地の消費者動向や競合状況を調べ、進出戦略の材料を提供する。

② 日本企業の海外進出サポート。バイヤーとの橋渡しや商談の同行、現地でのプレゼンテーションなど。

③ 現地法人の設立・運営支援。物件探しや行政手続きの窓口になる。

④ 通訳・翻訳とコンサルティングの組み合わせ。言語だけでなく、商習慣ごと伝えられる人材は重宝される。

⑤ デジタルマーケティング(広告運用・ファネル構築)。オンラインで完結するため、場所の制約を受けにくい。

このうち⑤は場所を問わずに提供できるため、海外移住との相性がいい。広告運用のプラットフォームも、動線を設計する考え方も、国が変わっても本質的な部分は変わらないからだ。

企業から選ばれるスキルを持つことは、雇用に頼らずに自分で稼ぐ力を築く土台になる。会社を辞めても、ビザの状況が変わっても、自分のスキルで契約を取れる状態を作っておくことが、海外で事業を続けていくための備えになる。

3. BtoBからBtoCへスケールする道筋

パリの街角とカフェテラス

BtoBのコア事業が安定してからBtoCへ

BtoBで収益基盤を作った後、次のステップとしてBtoC(個人向け)への展開がある。ただし、ここには順番がある。

いきなりBtoCから始めると、スキルも実績もない状態で個人客を獲得しなければならず、挫折しやすい。一方、BtoBで実績とスキルを積み上げてからBtoCに展開すると、最初から「プロとしての信頼」がある状態で始められる。BtoBで培ったディレクションスキルやマーケティング力は、そのままBtoCでも使える。

青木さんの事例:一人商社からBtoCコンサルへ

パリ在住35年、フランスへの日本製品の輸出やイベント支援を手がけてきた青木さんの歩みは、この道筋をよく表している。

青木さんはもともと日本語教師としてパリに渡り、当初はビジネスをするつもりすらなかったという。現地の広告代理店でリサーチ業務を任されるうちに、日本の職人や企業から「フランスでの発表を手伝ってほしい」という依頼が舞い込むようになった。最初は個人で日本の製品をハンドキャリーして販売する小さな仕事だったが、インテリア関連の店舗から声がかかったことをきっかけに、企業から企業への橋渡し役という立場が確立されていく。そこから、輸入から発送まで外部委託しながら、日本企業のフランス進出をディレクションする一人商社のような形でBtoB事業を築いていったという。

転機になったのは、土居さんとの棚卸しだった。今後どう生きていきたいのか、事業をどう位置づけるのかを言語化していく中で、個人向けのコンサルティングという選択肢が見えてきた。インスタグラムで発信を始めると相談が次々と寄せられ、契約が決まっていったという。

BtoBで積み上げてきたフランス市場の知見やネットワーク、ディレクション力は、そのままBtoCでも活きた。しかも、BtoC事業を広げたことで停滞気味だったBtoB事業にも勢いが戻ってきたという。片方だけが伸びたのではなく、両方が支え合う形で事業が動き出した。結果としてBtoBとBtoCが相乗効果を生み、年商1億円に到達している。

「個人でも億は狙える」というのは事実だが、これは数年かけて積み上げてきた結果であり、短期間で到達できる話ではない。この伴走は1年以上に及ぶ。ゆっくりと積み上げる時間があってこその結果だ。

4. 海外BtoBビジネスで必要なスキル

マーケティングの数字を分析する手元

ディレクションスキルとマーケティング

海外経営者になるためのロードマップの中で、3番目のステップに位置づけられているのが「マーケティングで価値を出す」ことだ。これがBtoBの核心にあたる。

マーケティングとは、企業の売上が上がる仕組みを設計することだ。青木さんの場合で言えば、フランス市場でのマーケティング全般をディレクションするスキルがそれにあたる。どのメディアを使うか、どのバイヤーと組むか、顧客が興味から購入に至るまでの動線をどう設計するか。この動線設計力こそが、企業から必要とされる上流のスキルだ。

マーケティングを学び、価値を出せるようにならなければ、事業の規模は一定の水準で頭打ちになりやすい。逆に言えば、ここを押さえられれば、海外にいながら企業の売上に貢献する立場になれる。以前勤めていたP&Gのような消費財企業では、経営トップにマーケティング出身者が就くことが多い。優秀な人材が入ることでブランドの売上が息を吹き返す場面を、現場で何度も見てきた。それだけ、売上を作れる人材の価値は高い。

UTAGEと広告運用という武器

動線設計を実務に落とし込む具体的な武器が、UTAGE(ファネル構築ツール)と広告運用だ。これらは、案件を受注して実際のビジネスに落とし込むための実務スキルにあたる。

場所を問わずクライアントワークができるため、海外移住との相性がいい。広告の管理画面もファネルの考え方も、国内外で本質的な違いはない。UTAGEのようなツールを使うと、広告をきっかけに何人がサイトに訪れ、何人が申し込み、最終的にいくら購入につながったかまでを一括で追跡できる。企業にとっては「広告にいくら使ったら、いくら売上が返ってきたか」を正確に把握できることが何より重要で、この可視化そのものが提供価値になる。

ただし、これらはツールの使い方を学ぶだけでは身につかない。実際の案件で手を動かしてみるしかない。完璧な準備を待つより、正しい一歩を踏み出すこと。小さな案件から実績を積み重ねていくことで、少しずつ扱える案件の規模が大きくなっていく。これが、海外BtoBビジネスで実際に起きている積み上げ方だ。

5. BtoBとBtoCの違いを整理する

オランダの運河沿いの街並み

収益構造の違い

BtoBとBtoCでは、収益の作られ方がまったく異なる。

項目 BtoB(企業向け) BtoC(個人向け)
資金源 企業の事業予算 個人の財布
意思決定の基準 売上が上がるかという合理的判断 信頼・共感という感情的判断
単価 比較的高く、安定しやすい ばらつきが大きい
継続性 契約ベースで継続しやすい ファンを維持し続ける必要がある

BtoBは、企業が「売上が上がるなら投資する」という合理的な判断で動くため成立しやすい。一方、BtoCは「この人から買いたい」という感情的な判断が入るため、成功率は決して高くない。実感として、コンテンツ販売で収益化できる人は2割以下だ。実際に、コンテンツ販売系のコミュニティに参加した経験がある人に話を聞くと、収益化できている人はごく一部にとどまっている。

求められるスキルの違い

必要なスキルにも違いがある。BtoBでは、提案力、企画力、進行管理力、数字で成果を語る力が求められる。BtoCでは、言語化力、コンテンツを作る力、ファンを育てる力、セールスライティングの力が求められる。

コンテンツ販売で成功するには、千人の前でプレゼンをして「それ、欲しいです」と言われるレベルの価値を作らなければならない。ハードルは決して低くない。企業相手であれば「これをやれば売上が上がる」という方程式が成り立ちやすいが、個人向けのサービスは、そもそもニーズがあるかどうかの見極め自体が難しい。だからこそ、先にBtoBで実力をつけた人がBtoCに進むと強い。BtoBが向いていないからBtoCへ、という発想ではなく、あくまで順番の問題としてとらえておきたい。

まとめ

海外起業は、BtoC(個人向け)よりもBtoB(企業向け)から始める方が近道になりやすい。企業は「売上が上がるなら投資する」という合理的な判断で動くため、実績がまだない段階でも事業を作りやすいからだ。

BtoBで実績とスキルを積み上げてからBtoCに展開すると、相乗効果で事業が加速する。必要なのは特別な才能ではなく、マーケティング力とディレクション力。そしてそれは、実際にやってみることでしか身につかない。

海外で事業を作る第一歩は、企業に価値を提供することだ。まずは自分のスキルで、一社の売上に貢献するところから始めてみてほしい。

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