「税金がかからない国」として、ドバイの名前を耳にしたことがある方は多いのではないでしょうか。所得税がゼロ、高層ビルが立ち並ぶ未来都市、治安も良い。魅力的な情報が並ぶ一方で、ビザの種類や費用、税制の実際の仕組みまで正しく理解している方は多くありません。
この記事では、ドバイ移住に必要なビザの種類・費用の目安・税制の仕組みを一次情報ベースで整理します。あわせて、税制だけで移住先を決めることのリスクについてもお伝えします。
ご注意:本記事のビザ要件・税制・費用等の情報は2026年8月時点のものです。UAEの制度は変更が比較的頻繁です。渡航・申請の前に、必ず U.AE公式サイト で最新情報をご確認ください。
1. ドバイが移住先として注目される理由

外務省の統計によると、UAE(アラブ首長国連邦)在留邦人数は近年増加傾向にあります。ドバイはその中心地です。中東でありながら英語が広く通じ、多国籍な住民構成、24時間稼働するドバイ国際空港をハブとしたアクセスの良さも、注目される理由のひとつです。
治安の良さも、ドバイが語られるときによく挙がるポイントです。厳格な法律と徹底した監視体制のもと、夜間の一人歩きも比較的安心とされています。子育て世帯にとっても、この治安の水準は移住先選定における重要な要素になります。
一方で、こうした魅力の裏には見落とされがちな側面もあります。物価は決して安くありません。特に住居費は年々上昇傾向にあり、後述するとおり、生活費全体を押し上げる要因になっています。ドバイ移住を検討するなら、華やかなイメージだけでなく、ビザの仕組み・費用・税制という実務面を正しく理解しておくことが欠かせません。
※在留邦人数の詳細は 外務省 UAE基礎データ をご確認ください。
2. ドバイ移住のビザ種類|フリーランスからゴールデンビザまで

ドバイに滞在する方法は、大きく分けて「法人設立を通じたビザ」「投資を通じたビザ」「雇用・家族関係によるビザ」の3系統に分類できます。それぞれの特徴を整理します。
フリーゾーン法人設立ビザ
UAEには外資100%で会社を設立できる「フリーゾーン」が多数存在します。IFZA、DMCC、Dubai South など目的に応じて選べる自由度があり、法人設立と同時に居住ビザを取得できる点が特徴です。年間の設立・維持コストはAED 15,000〜30,000程度が目安とされ、業種やフリーゾーンによって幅があります。個人で小さく事業を始めたい方に選ばれやすいルートです。
メインランド法人設立ビザ
フリーゾーンとは別に、UAE本土(メインランド)で会社を設立する方法もあります。2021年の法改正により、多くの業種で外資100%出資が認められるようになりました。メインランド法人は、フリーゾーン法人と異なり地元市場と直接取引できる点がメリットです。その分、設立手続きや必要書類はやや複雑になる傾向があります。
ゴールデンビザ(5年または10年)
UAE政府が2019年に導入した長期居住制度です。カテゴリによって期間が異なり、不動産投資(AED 200万以上の不動産購入)は5年、公的投資(AED 200万以上の資本金)や特定分野の傑出人材は10年の居住資格が得られます。更新も可能で、雇用主のスポンサーに紐づかない点が、後述する就労ビザとの大きな違いです。
不動産投資ビザ
不動産を購入することで取得できる居住ビザです。従来はAED 75万以上が要件とされていましたが、2026年4月にDubai Land Department(DLD)が単独所有者の下限を撤廃したとの報道があります。ゴールデンビザほどの長期性はありませんが、比較的シンプルな条件で申請できるルートとして知られています。
※不動産投資ビザの最新要件は Dubai Land Department公式サイト でご確認ください。制度改正が頻繁であり、ここに記載した情報と異なる場合があります。
就労ビザ・家族ビザ
現地企業に雇用される形で取得するのが就労ビザです。この場合、ビザは雇用主に紐づいており、退職や解雇があった場合は原則として30日以内の出国が求められます。就労ビザの保持者は、配偶者や子どもを「家族ビザ」として呼び寄せることも可能ですが、こちらも主たるビザの状態に依存する構造です。
POINT|UAEには「永住権」という制度自体が存在しない
ここで押さえておきたいのは、UAEには欧州の国々にあるような「永住権(Permanent Residency)」という制度そのものが存在しないという事実です。ゴールデンビザは長期の居住資格ではありますが、条件を満たし続ける限りにおいて更新される制度であり、無条件に住み続けられる権利ではありません。ドバイ移住のビザ選びを考える際は、この前提を正しく理解しておく必要があります。
※ビザ要件・費用は変更される場合があります。最新情報は U.AE公式サイト ビザ・エミレーツID でご確認ください。
3. ドバイ移住にかかる費用

ドバイ移住を検討する際、最も気になるのが費用面です。ビザ取得の初期費用から月々の生活費まで、実数ベースで整理します。
初期費用の目安
ビザ申請料・エミレーツID発行費用・健康診断費用・法人設立コストなどを合算すると、初期費用としてAED 50,000〜100,000程度を見ておくのが現実的です。日本円に換算すると、2026年8月時点のレート(1AED=44円)でおよそ220万円〜440万円になります。フリーゾーン法人設立ルートを選ぶか、就労ビザで入るかによって、この初期費用は大きく変動します。
月額生活費の目安
生活費比較サイトNumbeoのデータによると、ドバイでの単身者の月額生活費(家賃を除く)はおよそAED 4,000〜5,000程度です。ここに家賃を加えると、市外エリアの1ベッドルームでAED 5,500前後、市街地中心部ではAED 9,000前後となり、家賃込みの月額生活費はAED 10,000〜14,000程度(日本円でおよそ44万円〜62万円)が目安になります。家賃はエリアによって差が大きく、ダウンタウンやマリーナといった人気エリアでは、この目安よりさらに高くなる傾向があります。
教育費(インターナショナルスクール)
子ども連れでの移住を検討する場合、教育費は大きな支出項目になります。ドバイのインターナショナルスクールの年間学費は、カリキュラムやランクによってAED 30,000〜100,000程度と幅があります。日本円にすると年間およそ130万円〜440万円です。複数の子どもがいる家庭では、この費用が生活費全体に占める割合はかなり大きくなります。
費用面で見落としやすいポイント
所得税がゼロであることばかりが注目されがちですが、住居費・教育費の高さを考慮すると、実際の可処分所得への影響は国や生活スタイルによって大きく異なります。税率だけでなく、生活費全体で比較検討することが重要です。
※生活費データは Numbeo を参照しています。為替レートは変動するため、実際の換算額は渡航時点で改めてご確認ください。
4. ドバイ移住の税制と見落としやすい注意点

ドバイが「税金のかからない国」として語られる背景には、正確な理解が必要な仕組みがあります。
所得税ゼロという事実
UAEには個人所得税が存在しません。給与所得・事業所得ともに、個人に対する所得税は課されないというのは事実です。この点だけを切り取って「税金ゼロの国」という言い方がされることが多くあります。
法人税9%の導入(2023年)
一方で見落とされがちなのが、2023年6月に導入された法人税です。課税所得AED 375,000を超える部分に対して、9%の法人税が課される制度が始まりました。これは「UAE=法人税もゼロ」というかつてのイメージを塗り替える大きな変化です。フリーゾーン法人には一定の優遇措置がありますが、条件によって適用範囲は異なります。
VAT(付加価値税)5%
2018年から導入されているVATは、多くの商品・サービスに対して5%課税されます。所得税がゼロである一方、消費に対する課税は存在するという構造です。
日本側の税務リスク
見落とされやすいのが、日本側の税務上の論点です。日本の非居住者と認定されるには、単に海外に住所を移すだけでなく、生活の実態や滞在日数などが総合的に判断されます。また、一定の資産を保有した状態で海外に転出する場合、国外転出時課税制度(いわゆる出国税)の対象になるケースもあります。ドバイに移住したからといって、日本側の税務がすべて無関係になるわけではありません。
YMYLに関する注記
税制は各国の制度改正や個人の状況によって適用が大きく異なります。本記事の内容は一般的な情報整理であり、個別の税務判断ではありません。実際の申告・移住にあたっては、税理士・国際税務の専門家に個別にご相談ください。日本側の制度については 国税庁 国外転出時課税制度(No.1478) もあわせてご確認ください。
法人税9%の導入が示すとおり、「今は税金がかからないから」という理由だけで移住先を決めると、制度変更に振り回されることになります。税制は固定されたものではなく、その国の財政方針によって変わり続けるものです。
※税制の詳細・最新情報は U.AE公式サイト 税制 および ジェトロ UAE税制 でご確認ください。
5. ドバイ移住のメリット・デメリット

ここまでの内容を踏まえて、ドバイ移住のメリット・デメリットを整理します。
メリット
① 個人所得税がかからない:給与・事業所得ともに個人への課税がない
② 治安が良い:厳格な法制度のもと、夜間でも比較的安心して過ごせる
③ 英語が広く通じる:多国籍な住民構成で、英語のみでの生活が成立しやすい
④ ハブ空港としてのアクセスの良さ:世界各地への直行便が充実している
⑤ フリーゾーンでの外資100%法人設立が可能:起業のハードルが比較的低い
デメリット
① 永住権制度が存在しない:ゴールデンビザも条件付きの長期居住資格であり、無条件に住み続けられる権利ではない
② 法人税9%が導入済み:2023年の制度変更で「完全に税金ゼロ」ではなくなった
③ 住居費・教育費が高い:所得税ゼロの恩恵を、生活費の高さが相殺する場合がある
④ 就労ビザは雇用主に紐づく:退職・解雇時は原則30日以内の出国が必要になる
⑤ 制度変更のスピードが速い:税制・ビザ要件ともに近年変更が続いており、最新情報の確認が欠かせない
6. ドバイ移住を検討する前に考えるべきこと

ここまで、ドバイ移住のビザ・費用・税制について、できる限り客観的に整理してきました。この章では、私自身の考え方をお伝えします。
私は、税制だけを理由に移住先を選ぶことをおすすめしていません。所得税がゼロという条件は魅力的に見えますが、2023年の法人税導入が示したとおり、税制はその国の財政状況によって変わり続けるものです。税金がかからないという理由だけで選んだ国が、数年後には条件を変えているかもしれません。
私が大切にしているのは、「心が喜ぶ国を選ぶ」という視点です。税率で選んだ国に住み続けることと、文化や暮らしそのものに惹かれて選んだ国に住み続けることでは、長期的な満足度がまったく違います。
もうひとつ大切なのは、雇用ではなく事業を持つという視点です。就労ビザは雇用主に紐づいており、退職すれば30日以内の出国が求められます。これはドバイに限った話ではありませんが、「その国に雇われて住む」という状態は、常に他人の判断に依存するリスクを抱えています。自分で事業を作り、どこにいても稼ぐ力を持つことができれば、ビザの種類や雇用主の都合に振り回されずに済みます。
ただし、これは急いで達成するものではありません。事業も移住も、一気に完成させようとするとどこかで無理が出ます。月々の売上を少しずつ積み上げ、事業の土台が固まってから移住先を検討する。この順番を守ることが、長く住み続けられる状態につながります。
そして、移住を検討する段階で考えておきたいのが、最初から出口まで設計するという視点です。ドバイのように永住権制度そのものが存在しない国もあれば、一定期間の居住実績を経て永住権、さらにはその先の市民権へとつながる国もあります。「行ってから考える」のではなく、「その国にどれだけ長く住み続けられるのか」を最初に把握しておくこと。これが、移住先選びで見落とされがちな、しかしもっとも重要な視点です。
ドバイという国そのものを否定するつもりはありません。ビジネス環境として優れた面は確かにあります。ただ、税制の良し悪しだけで国を選ぶのではなく、事業を持ち、心が豊かになる場所を選ぶこと。それが、移住を「一時的な滞在」ではなく「暮らし」に変えるための考え方だと、私は考えています。
7. ドバイ移住のよくある質問(Q&A)とまとめ

Q1. ドバイ移住に英語力はどの程度必要ですか?
ドバイは多国籍な住民構成で、英語が広く通じる環境です。アラビア語ができなくても、日常生活・ビジネスの多くの場面は英語で完結します。ビザ申請自体に英語試験のような要件は課されていません。
Q2. ドバイ移住で永住権は取得できますか?
前述のとおり、UAEには欧州型の永住権制度そのものが存在しません。ゴールデンビザはカテゴリによって5年または10年の長期居住資格ですが、条件を満たし続けることが前提の制度です。「永住権を取る」という目的でドバイを選ぶ場合は、この制度上の違いを理解しておく必要があります。
Q3. ドバイ移住の初期費用はどれくらい必要ですか?
ビザ申請・法人設立・エミレーツID発行等を含めると、AED 50,000〜100,000(2026年8月時点のレートでおよそ220万円〜440万円)が一つの目安です。ルートによって変動幅は大きく、事前の資金計画が欠かせません。
Q4. ドバイの税金は本当にゼロなのですか?
個人所得税はゼロです。ただし、2023年に導入された法人税(課税所得AED 375,000超の部分に9%)とVAT(5%)は存在します。「税金がまったくかからない国」という理解は正確ではありません。
Q5. ドバイ移住は日本の税金にどう影響しますか?
日本の非居住者と認定されるかどうかは、住所の移転だけでなく生活実態や滞在日数など総合的に判断されます。また、一定の資産を保有したまま海外転出する場合、国外転出時課税制度の対象になることもあります。個別の状況によって判断が異なるため、税理士など専門家への相談をおすすめします。
まとめ
ドバイ移住は、所得税ゼロという条件だけを見ると魅力的に映ります。しかし、法人税9%の導入、永住権制度の不在、住居費・教育費の高さなど、実際には理解しておくべき論点が多くあります。
税制は変わり続けるものです。だからこそ、税率だけで移住先を決めるのではなく、事業を持ち、心が豊かになれる場所かどうかという視点を持つこと。それが、長く暮らし続けられる移住につながります。
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