海外移住を考え始めると、多くの人が一度は立ち止まる問いがあります。「年金はどうなるのか」ということです。海外移住 国民年金の扱いは、払い続けるべきなのか、やめても大丈夫なのか、判断に迷う方が少なくありません。実際に海外移住 年金 どうなるのかを正確に理解している人は、思っているより多くないのが実情です。
この記事では、海外転出届を出した場合の国民年金の扱い、任意加入制度のメリットとデメリット、将来の受給額への影響シミュレーション、手続きの流れまでを整理します。私自身、海外在住で移住者のコンサルティングに携わってきた立場から、制度を正しく理解したうえで自分にとっての最善を選ぶための情報をお届けします。
目次
※ご注意:本記事の制度・金額に関する情報は2026年7月時点のものです。年金制度や保険料額は毎年見直されます。正確な要件・最新の金額については、必ず日本年金機構公式サイトまたは最寄りの年金事務所にご確認ください。
海外移住したら国民年金はどうなる?基本のしくみ

海外転出届を出すと国民年金は資格喪失になる
海外移住が決まり、市区町村に海外転出届を提出すると、国民年金の第1号被保険者としての資格を喪失します。ここで大事なのは、「払わなくてよくなる」というのが正確な理解であり、「払えなくなる」わけではないという点です。
ポイントは3つあります。
① 海外への転出(出国)日の翌日に、国民年金の資格を喪失します。
② 転出届を出さずに海外へ出てしまうと、日本国内に住んでいる扱いのまま保険料の納付義務だけが続き、未納として督促が発生する可能性があります。
③ 会社員として働いていた方は、退職と転出のタイミングが重なることが多く、厚生年金から国民年金へ、そして資格喪失へと立て続けに手続きが動きます。
ここで不安になる必要はありません。資格喪失は、年金がゼロになることを意味しないからです。任意加入という選択肢が用意されており、続けるかやめるかは自分で選べます。
※出典:日本年金機構「国民年金の資格取得・喪失」(公式サイト参照)、日本年金機構「海外へ転出するとき」
「任意加入」で海外でも継続できる
資格を喪失しても、それで国民年金との関わりが終わるわけではありません。「任意加入制度」を利用すれば、海外に住んだまま国民年金への加入を続けることができます。
これは義務ではなく、あくまで選択です。加入する人もいれば、あえて加入しない人もいます。どちらが正しいということはなく、自分の人生設計に合わせて選ぶものだと捉えてください。制度の細かい条件や保険料、手続きの流れについては、次の章で詳しく見ていきます。
※出典:日本年金機構「任意加入制度」
国民年金の任意加入制度とは|対象者・保険料・手続き

年金 任意加入できる人の条件
国民年金の任意加入は、誰でも利用できるわけではありません。対象となるのは、次の条件をすべて満たす方です。
① 日本国籍を持っていること
② 20歳以上65歳未満であること
③ 海外に住所を有していること
なお、海外の企業に現地採用され、その国の厚生年金に相当する制度に加入している場合など、厚生年金の被保険者に該当する方は任意加入の対象外となります。
もう一つ知っておきたいのが、65歳以上70歳未満を対象とした「特例任意加入」です。これは老齢基礎年金の受給資格期間(10年)を満たしていない方が、不足分を補うために利用できる救済的な制度で、通常の任意加入とは条件が異なります。
※出典:日本年金機構「任意加入制度」、日本年金機構「海外へ転出するとき」
保険料と支払い方法
2026年度(令和8年度)の国民年金保険料は月額17,920円です。年額にすると215,040円、おおよそ21万円台の費用感になります。この金額は毎年見直されるため、最新額は必ず日本年金機構「国民年金保険料」のページでご確認ください。
海外在住のまま任意加入する場合、保険料の支払い方法は次の3パターンに限られます。
① 日本国内に住む親族などを「国内協力者」として届け出て、口座振替で納付する
② クレジットカードで納付する
③ 本人名義の国内の口座から引き落とす
海外の口座から直接送金して納付することはできません。この点は見落とされがちなので、あらかじめ国内協力者の確保やカード情報の準備をしておくとスムーズです。
前納制度を使うと保険料が割引になります。まとめ払いの単位ごとの目安は、次のとおりです。
| 前納単位 | 特徴 |
|---|---|
| 6ヶ月前納 | 毎月納付より少額の割引 |
| 1年前納 | 6ヶ月前納より割引額が大きい |
| 2年前納 | 最も割引額が大きく、口座振替なら2年間で17,370円の割引になる |
割引額は年度ごとに改定されるため、正確な金額は日本年金機構「2年前納制度」でご確認ください。
手続きの流れ(出国前/出国後)
任意加入の手続きには、出国前と出国後の2パターンがあります。
出国前に手続きする場合、市区町村の窓口または年金事務所で、転出届の提出と同時に任意加入の申出ができます。もっとも空白期間ができにくく、実務としてはこちらが望ましい進め方です。
出国後に手続きする場合は、国内協力者の有無によって届け出先が分かれます。国内に協力者(親族など)がいる場合は、最後の住所地の市区町村窓口で手続きが可能です。国内協力者がいない場合は、最後の住所地を管轄する年金事務所へ、任意加入申出書などの書類を郵送します。
出国前と出国後のどちらでも手続きは可能ですが、空白期間が生じると、その間に万が一のことがあった場合に障害年金などの保障が受けられない可能性があります。可能であれば、出国前に手続きを済ませておくのがベストです。
※出典:日本年金機構「海外へ転出するとき」、日本年金機構「任意加入制度」
海外移住で国民年金に任意加入するメリット

老齢基礎年金の受給額を満額に近づけられる
老齢基礎年金の額は、40年間(480ヶ月)納付を続けた場合の「満額」を基準に、実際に納付した月数の割合で計算されます。2026年度の満額は年847,296円(月額70,608円 x 12ヶ月)です。
たとえば、海外に10年間(120ヶ月)在住し、その間まったく納付しなかったとします。この場合、納付月数は満額の月数より120ヶ月少なくなり、受給額は「満額 x (480-120) / 480」で計算され、満額の75%、年額にして約635,472円にとどまります。任意加入して10年分を納めていた場合と比べると、年間で約21万円の差が生まれる計算です。
この差は一度きりではありません。65歳から受給が始まり、その後も終身で続きます。仮に85歳まで20年間受給するとして単純計算すると、生涯での差はおよそ424万円にのぼります。一方で、10年間の任意加入保険料の総額は約215万円です。数字だけを見れば、任意加入は長期的に見合う可能性が高い選択肢だと言えます。
ただしこれはあくまで現行制度をもとにした目安の試算です。実際の見込額は、ねんきんネットでご自身の加入記録をもとに試算することをおすすめします。
障害基礎年金・遺族基礎年金の受給資格を維持できる
老後の受給額ばかりに目が行きがちですが、任意加入にはもう一つ、見落とされやすい価値があります。それが、万が一のときの保障機能です。
任意加入中に初診日がある病気やケガによって一定の障害状態になった場合、障害基礎年金の対象になります。目安として、1級で年約100万円台、2級で年約80万円台の支給水準です(金額は年度により変わります)。一方、未加入の状態で海外在住中に障害を負った場合、原則としてこの保障は受けられません。遺族基礎年金についても同様の考え方が当てはまります。
これは脅かすための情報ではありません。任意加入には「老後の受給額を増やす」だけでなく「万が一のときの保険機能を持つ」という側面もある、と知っておくだけで、判断材料が一つ増えるということです。
※出典:日本年金機構「障害基礎年金」、日本年金機構「遺族基礎年金」
受給額シミュレーション|加入する場合としない場合の差
ここまでの内容を、一つのモデルケースで整理してみます。30歳で海外転出し、10年間海外に在住したケースです。
| パターンA(10年間任意加入) | パターンB(10年間未加入・カラ期間) | |
|---|---|---|
| 保険料総額(10年分) | 約215万円 | 0円 |
| 65歳時点の年間受給額への影響 | 満額に近づく | 年約21万円少ない状態が続く |
| 85歳までの受給総額の差 | 基準 | 約424万円少ない |
保険料総額とその後の受給額差を比べると、10年前後受給を続けた時点で保険料の負担分を受給額の増加分が上回る、という計算になります。もちろんこれは現行制度が変わらないことを前提にした試算であり、将来の制度改正によって数字が変動する可能性はあります。あくまで判断材料の一つとして受け止めてください。
※出典:ねんきんネット、日本年金機構「老齢基礎年金の受給要件・年金額」
任意加入しないとどうなるか|カラ期間と社会保障協定

カラ期間(合算対象期間)で受給資格は守れる
任意加入をしなかった場合、年金の権利がすべて失われるわけではありません。海外在住期間は「カラ期間(合算対象期間)」として扱われ、老齢基礎年金の受給資格期間(10年)にカウントされます。つまり、年金を受け取る権利そのものは守られます。
ただし、ここには重要な但し書きがあります。カラ期間は受給資格の判定には使えますが、実際の年金額の計算には反映されません。「資格は守れるが、額は増えない」という2つの側面を、切り分けて理解しておく必要があります。
カラ期間として認められる条件は、日本国籍を有し、海外に住んでいて、20歳以上60歳未満であることです。帰国後に納付を再開すれば、そこから先の加入月数は再び積み上がっていきます。帰国の予定がある方であれば、「帰国後に納付を続けて40年に届くかどうか」という視点で判断することもできます。
※出典:日本年金機構「合算対象期間」、日本年金機構「海外へ転出するとき」
社会保障協定の対象国と仕組み
もう一つ知っておきたいのが、社会保障協定です。日本と協定を結んでいる国では、その国の年金加入期間と日本の加入期間を通算し、受給資格を満たせる場合があります。2026年時点で、日本はドイツ、イギリス、フランス、オランダ、スペインなどを含む24カ国との協定が発効しています。
ここには3つの注意点があります。
① 通算によって「資格」は満たせても、「受給額」は各国でそれぞれ別々に計算されます。
② 協定を結んでいない国では、この通算は使えません。
③ 協定の主な目的は年金保険料の二重払いを防ぐことにあり、年金額を増やすための制度ではありません。
土居さんが拠点としてきたオランダやイギリス、フランス、スペインといった国々は、いずれも協定の対象国です。ヨーロッパでの起業や事業展開を考える方にとっては、押さえておいて損のない情報です。
※出典:日本年金機構「社会保障協定」、日本年金機構「協定発効国一覧」
任意加入すべきか迷ったときの判断基準|年金だけに頼らない老後設計

ここまでの制度理解を踏まえて、実際にどう判断すればいいのかを整理します。
任意加入が合理的だと考えられるのは、次のような方です。日本に帰国する可能性がある人、障害年金の保険機能を重視したい人、そして自分の寿命を長めに見積もって老後設計をしたい人です。
一方で、加入しない選択にも合理性があります。帰国する予定がない人、移住先の国の年金制度にすでに加入している人、そして保険料に充てる分を自分の事業への投資に回したいと考える人です。
どちらが正解ということはありません。自分がどんな人生を歩みたいかによって、選ぶべき答えは変わります。
ただし、一つだけお伝えしておきたいことがあります。任意加入をするにしても、しないにしても、「年金だけに老後のすべてを委ねる」という考え方には、一定のリスクがあるということです。年金は国の制度であり、制度は時代とともに変わっていきます。保険料率も、支給開始年齢も、これまで何度も見直されてきました。
本当の意味での安心は、「自分で稼ぐ力がある状態」から生まれるのではないかと私は考えています。海外で自分の事業を持つということは、年金という制度に加えて、自分自身がもう一つの収入の柱を持つということです。事業そのものが、年金に頼りきらない老後設計の土台になり得ます。
これは短期間で一気に何かを築くという話ではありません。今から少しずつ、事業を作り、稼ぐ力を育てていく。ゆっくりと積み上げていく話です。年金という制度と、自分で稼ぐ力という両輪を持っている状態こそが、海外でどんな変化があっても揺らぎにくい生き方につながっていきます。
海外移住と国民年金に関するよくある質問(Q&A)

まとめ|制度を知ったうえで、自分にとっての最善を選ぶ
最後に、この記事の内容を振り返ります。
① 海外転出届を出すと国民年金は資格喪失になる。ただし任意加入を選べば海外在住のまま継続できる。
② 任意加入のメリットは、老齢基礎年金の受給額を維持できることに加えて、障害基礎年金・遺族基礎年金という保険機能も持てること。
③ 任意加入しなくても、カラ期間として受給資格そのものは守られる。
④ 社会保障協定を結んでいる国であれば、加入期間の通算という選択肢もある。
⑤ そして何より、年金だけに頼らず「どこにいても稼げる力」を並行して育てていくことが、本当の意味での安心につながる。
制度を正しく知ったうえで、自分にとっての最善を選ぶ。その判断力こそが、海外で人生を設計していく力の一部だと私は考えています。
年金と合わせて、出国税についても把握しておくと、移住前の制度まわりの全体像がつかみやすくなります。
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