ビザ・手続き

ゴールデンビザとは|ポルトガル・スペインで終了が進む投資移住の今

「一定額を投資すれば、その国の居住権が手に入る」。ゴールデンビザという言葉を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。実際、2010年代以降、ポルトガルをはじめとするヨーロッパ各国がこの制度で富裕層の投資マネーを呼び込んできました。

ですが今、状況は大きく変わりつつあります。ポルトガルは不動産投資ルートを廃止し、スペインは投資移住制度そのものを廃止しました。「お金さえあれば移住できる」という前提が、静かに崩れ始めているのです。この記事では、ゴールデンビザの仕組みと各国の最新動向を整理したうえで、投資移住という選択肢が抱える構造的な限界についても触れていきます。

※本記事の情報は執筆時点のものです。ビザ制度・投資額の要件は各国で頻繁に改定されるため、最新・正確な情報は各国政府の公式窓口や専門家に必ずご確認ください。

1. ゴールデンビザとは|投資で居住権を買う仕組み

パスポートとビザのスタンプ

ゴールデンビザとは投資額と引き換えに得られる居住権制度

ゴールデンビザとは、一定額以上の不動産購入・ファンド出資・寄付金の支払いを行うことで、その国の居住権を得られる制度のことです。2012年頃からポルトガルが先行して制度を整備し、その後スペイン、ギリシャ、キプロスなど複数のEU加盟国が同様の仕組みを導入しました。

ここで押さえておきたいのは、ゴールデンビザで得られるのはあくまで「居住権」であり、即座に「市民権(国籍)」が付与されるわけではないという点です。多くの国では取得後も一定期間の居住実績や投資の維持が求められ、更新の義務も発生します。「投資すれば終わり」ではなく、その後も条件を満たし続ける必要がある制度だと理解しておくことが大切です。

通常の移住ルート(就労・起業ビザ)との違い

一般的な移住ルートには、就労ビザと起業ビザ(個人事業主ビザ)があります。就労ビザは現地企業からの雇用が前提となり、雇用主のスポンサーシップが必要です。起業ビザは自分自身の事業計画を提出し、その実現性が審査されます。

これに対してゴールデンビザは、事業計画も雇用主も不要で、投資額さえ満たせば要件をクリアできる点が最大の特徴です。この「お金を出せば取れる」というシンプルさこそがゴールデンビザの魅力であり、同時に後述する構造的なリスクの源にもなっています。この点については、記事の後半で改めて掘り下げます。

2. なぜゴールデンビザは各国で廃止が進んでいるのか

リスボンの路地と街並み

ポルトガル ゴールデンビザ|不動産ルート廃止と残る選択肢

ポルトガル ゴールデンビザは、2023年10月に不動産投資による申請ルートを正式に廃止しました。背景にあるのは、リスボンやポルトを中心とした住宅価格の高騰と、それに対する地元住民の反発です。海外投資家の不動産購入が家賃・物件価格を押し上げ、市民が住宅を確保しづらくなっているという批判が高まっていました。

現在も残っているルートは、文化遺産・研究機関等への寄付金(25万ユーロ〜、約4,625万円〜)と、投資ファンドへの出資(50万ユーロ〜、約9,250万円〜)の2つです。なお、不動産投資とは別制度になりますが、ポルトガル移住の代替ルートとしてD7ビザ(受動的所得ビザ)やD8ビザ(デジタルノマドビザ)も存在します。

※投資額・制度要件は改定される可能性があります。最新情報は ポルトガル外国人移民庁(AIMA) 等の公式情報をご確認ください。

スペイン|2025年ゴールデンビザ廃止の経緯

スペインは2025年4月、不動産投資によるゴールデンビザ制度を正式に廃止しました。主な理由は、ポルトガルと同様に住宅価格の高騰です。「外国人投資家が住宅市場を歪めている」という批判が国内で強まり、政治的な圧力が制度廃止を後押ししました。

廃止が発表されてから施行されるまでの間には、駆け込みでの申請が殺到したことも報じられています。制度がいつまで続くかわからないという不安定さそのものが、投資移住というルートの脆さを示す一例だといえるでしょう。

※出典: Forbes JAPAN 等の報道情報を参照。最新の制度情報はスペイン政府公式窓口をご確認ください。

EU全体が投資移住に厳しくなっている本質的な理由

ポルトガル・スペインの動きは個別の事情にとどまらず、EU全体の潮流でもあります。EUがゴールデンビザ制度を問題視する理由は、主に3つあります。

1つ目は、マネーロンダリングや税逃れに悪用されるリスクです。2つ目は、EU市民権の価値が希釈されるという懸念です。1国の居住権を得れば、シェンゲン協定加盟国全域への自由な移動が可能になるため、「市民権の安売り」という批判が根強くあります。3つ目は、ここまで見てきたような住宅市場の歪みです。

欧州議会は2022年、投資による市民権(ゴールデンパスポート)の完全廃止と、居住権制度(ゴールデンビザ)についてはEU共通ルールの制定・審査厳格化を求める決議を採択しています。「お金で権利を買う」という仕組みそのものが、EUが大切にしてきた価値観と根本的にぶつかり合っている、という構図が見えてきます。

※出典: 欧州議会公式サイト の決議情報を参照。

3. それでもゴールデンビザが残る国|ギリシャ・UAE等の動向

ギリシャの白い街並み

ギリシャの投資額引き上げと申請殺到の実情

一方で、ゴールデンビザ制度を維持しながら投資額を引き上げるという道を選んだ国もあります。ギリシャは2024年、アテネなど主要エリアにおける最低投資額を25万ユーロ(約4,625万円)から80万ユーロ(約1億4,800万円)へと大幅に引き上げました。

投資額の引き上げにもかかわらず、中国や中東からの申請は依然として多く、制度を残しつつハードルを上げることで投資の質をコントロールしようとする戦略がうかがえます。なお、投資額はエリアにより異なり、主要エリア外では40万ユーロ(約7,400万円)程度とされる区分もあります。ただし、EU議会からの圧力はギリシャにも同様に及んでおり、「ギリシャの制度も永続的に続くとは限らない」という点は押さえておく必要があります。

※出典: Forbes JAPAN 等を参照。最新の投資要件はギリシャ移民庁公式情報をご確認ください。

EU域外(UAE・カリブ諸国)の現行制度

EUの規制強化とは対照的に、EU域外では投資移住制度を積極的に維持している国もあります。UAE(アラブ首長国連邦)は、200万AED(約8,800万円)以上の不動産投資で10年間有効なゴールデンビザを取得できる制度を設けています。またアンティグア・バーブーダなどカリブ諸国では、23万米ドル(約3,730万円)からの寄付で市民権そのものを直接取得できる制度もあります(2024年8月に東カリブ5カ国の申し合わせにより旧10万USDから引き上げ)。

これらは税負担の軽さを理由に注目されることも多い制度ですが、本記事では税制面でのメリットを推奨する立場は取りません。あくまで現行制度の情報として押さえておいていただければと思います。

4. 国別ゴールデンビザ比較一覧表

世界地図と各国のピン

投資額・永住権取得年数・現状ステータス比較

ここまで見てきた国々を含め、主要なゴールデンビザ制度を一覧表にまとめました。同じ「ゴールデンビザ」という言葉でも、国によって投資額も制度の存続状況も大きく異なることがわかります。

最低投資額(目安) 居住権の種類 永住権取得年数 現状ステータス
ポルトガル 寄付金25万ユーロ〜(約4,625万円〜) 居住権 5年 不動産ルート廃止・寄付/ファンドのみ存続
スペイン 2025年4月廃止
ギリシャ 80万ユーロ〜(約1億4,800万円〜) 居住権 7年 存続(大幅引き上げ)
アイルランド 廃止
イギリス(旧Tier1) 廃止
UAE 200万AED〜(約8,800万円〜) 居住権(10年) ―(国籍取得は原則不可) 存続
アンティグア・バーブーダ 23万米ドル〜(約3,730万円〜) 市民権 即時(市民権直接取得) 存続

こうして並べてみると、ヨーロッパ主要国では制度の縮小・廃止が加速している一方、ギリシャのように投資額を引き上げて存続させる国、UAEやカリブ諸国のようにEU域外で制度を維持している国、という構図が見えてきます。ただし、いずれの国も政治・経済情勢によって制度が変更される可能性は常にあります。

※本表の数値・ステータスは執筆時点の情報です。各国政府の公式窓口で最新情報をご確認ください。

5. ゴールデンビザという選択肢の限界

窓辺で外を見つめる女性の後ろ姿

「お金を積んで買う移住」で解決できないこと

ここまでゴールデンビザの仕組みと各国動向を見てきましたが、ここで一度立ち止まって考えたいことがあります。それは、居住権を「買う」ことができたとしても、それだけでは解決できない問題が残るということです。

第一に、移住先で収入を生み出す基盤がなければ、投資した資産は使うだけ減り続けます。第二に、多くの国では更新のたびに投資の維持が求められ、資産状況が変われば継続が難しくなる可能性があります。第三に、ここまで見てきたように、制度改正によって条件が突然変わり、はしごを外されるリスクも常につきまといます。

「お金で権利を買う」ということは、裏を返せば「お金が尽きたら権利も維持できなくなる」ということでもあります。これは、他者や外部の条件に依存して自分の立場を成り立たせるという構造そのものであり、本質的には会社員としての雇用に依存する状態と近いものがあるのかもしれません。自分自身の力で立っている状態とは、少し違う形だといえます。

移住した後、その国で何をして生きるか

そしてもう一つ、見落とされがちな視点があります。それは、移住は「その国に行くこと」がゴールではなく、「その国でどう生きるか」こそが本番だということです。

仕事の基盤がなければ、日々の生活のリズムも、現地の人たちとの人間関係も、社会とのつながりも生まれにくくなります。投資額の大きさで移住先を選ぶというのは、ある意味では「条件」だけで国を選ぶ発想であり、税率や物価だけで移住先を決めることと構造的には近いのではないでしょうか。大切なのは、その国で何をして、誰とどう生きていきたいのかという問いに、あらかじめ向き合っておくことだと思います。

とはいえ、これは「投資移住だから危険」という単純な話でもありません。実は、お金の力に頼らずとも、自分のスキルを基盤にして移住先での生活を設計していく道もあります。次の章では、その具体的な選択肢について見ていきます。

6. 投資移住に代わる選択肢|起業ビザ・個人事業主ビザという道

カフェで作業する女性の手元とパソコン

オランダ・ポルトガル等の起業ビザとの比較

ゴールデンビザが「資産」を要件とするのに対し、起業ビザ(個人事業主ビザ)は「事業計画とスキル」を要件とします。投資額の面でも、ゴールデンビザが50万ユーロ規模の資産を求めるのに対し、起業ビザは数千ユーロ規模の資金で申請できるケースが多く、必要になる元手の大きさが大きく異なります。

例えばオランダには、日蘭通商航海条約に基づく個人事業主ビザという制度があります。4,500ユーロ(約83万円)程度の資本金とKvK(商工会議所)への事業登録によって申請が可能です。ポルトガルにも、独自の事業計画を提出するD2起業ビザという制度があります。

投資額だけでなく、求められるものが「お金」なのか「スキルと事業計画」なのかという違いは大きな意味を持ちます。永住権への道のりはどちらのルートも概ね5年前後とされていますが、起業ビザは政治的な批判の対象になりにくく、制度としての安定性という点でも比較的落ち着いた位置にあると考えられます。

オランダ移住の完全ガイド

※制度の詳細・最新の申請要件は各国大使館・移民局の公式情報をご確認ください。

スキルで稼ぐ力を先に持つという逆算思考

ゴールデンビザと起業ビザの最も大きな違いは、発想の順番にあります。ゴールデンビザは「お金があるから行ける」という順算の発想であるのに対し、起業ビザは「自分で稼ぐ力を先に持つ→それを土台に移住する」という逆算の発想です。

自分に属さない資産(投資できるお金)ではなく、自分自身に属すスキルを先に育てておくことには、いくつかの優位性があります。まず、制度改正の影響を受けにくいこと。次に、移住した時点ですでに生活の基盤(稼ぐ手段)があること。そして、永住権を取得した後も、その事業をそのまま継続していけることです。雇用に頼るのではなく、自分の力で立っていく生き方に近いといえます。

ただし、これは短期間で一気に稼げるようになる道ではありません。スキルを積み上げて事業として形にしていくには、ある程度の時間がかかります。急成長を狙うのではなく、地道に、ゆっくりと積み上げていく姿勢が、結果的には長く安定して続けられる基盤につながります。

7. まとめ|ゴールデンビザを検討する前に考えたいこと

ここまで、ゴールデンビザの仕組みと各国の最新動向、そして投資移住という選択肢の限界について見てきました。改めて振り返ると、次の4点が重要なポイントです。

1つ目は、ポルトガル・スペインをはじめ、EU加盟国ではゴールデンビザの廃止・縮小が加速しているということ。2つ目は、ギリシャのように制度が残る国でも、投資額の引き上げなど条件が厳しくなっており、永続的な制度とは言い切れないということ。3つ目は、「お金で移住権を買う」ことができても、それだけでは移住後の生活基盤や収入源の問題は解決しないということ。そして4つ目は、その代わりとなる選択肢として、スキルを先に育てて移住する起業ビザという道があるということです。

POINT|大切な考え方

大切なのは、お金で解決できることとできないことを分けて考え、自分に合った移住ルートを設計することです。

ゴールデンビザという選択肢を検討する際には、投資額の大きさだけでなく、その先でどう生きていきたいかという問いにも、ぜひ一度向き合ってみてください。

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