パソコン1台でどこでも働ける時代になり、「デジタルノマドビザ」という制度を耳にする機会が増えました。ヨーロッパを中心に40カ国以上が導入していますが、国によって条件も難易度も大きく異なります。私自身、複数の国でビザを取得し移住してきた経験から、制度の基本と国別の年収条件、そしてその先の永住権ルートまでを整理してお伝えします。
目次
※ビザの要件は各国の移民局により随時変更されます。本記事の情報は2026年7月時点のものです。最新・正確な要件は各国公式サイトや専門家へ必ずご確認ください。
1. デジタルノマドビザとは|制度の基本と従来のビザとの違い

デジタルノマドビザの定義と成立背景
デジタルノマドビザとは、自国以外の企業やクライアントから収入を得ながら、その国に一定期間合法的に滞在できる在留資格のことです。2020年前後のコロナ禍を契機に、エストニアやクロアチアなど北欧・東欧の国々が先陣を切り、以降ヨーロッパを中心に40カ国を超える国が同様の制度を導入しました。背景には、リモートで働く人材を受け入れることで、就労を目的とせず滞在してもらいながら税収や消費を取り込みたいという各国の狙いがあります。「デジタルノマドビザ」という名称のほか、「リモートワークビザ」「テレワークビザ」と呼ぶ国もありますが、仕組みはおおむね共通しています。
就労ビザ・起業ビザ・観光ビザとの違い
デジタルノマドビザは、就労ビザや起業ビザとは根本的に性質が異なります。就労ビザは現地企業からの雇用が前提で、雇用主のスポンサーが必要です。起業ビザは現地での事業計画書や資本金の証明が求められます。一方でデジタルノマドビザは、雇用主も事業計画も不要で、あくまで「海外の収入源を維持したまま滞在する」ための制度です。ただし現地企業への就労は原則として認められておらず、滞在期間も1〜2年程度と有期限であることがほとんどです。観光ビザのように短期滞在を繰り返す必要がない点は大きな利点ですが、多くの国では永住権への接続ルートが用意されていない点には注意が必要です。
| 項目 | デジタルノマドビザ | 就労ビザ | 起業ビザ | 観光ビザ |
|---|---|---|---|---|
| 雇用主 | 不要 | 必要 | 不要 | 不要 |
| 事業計画書 | 不要 | 不要 | 必要 | 不要 |
| 現地就労 | 原則不可 | 可能 | 可能 | 不可 |
| 滞在期間の目安 | 1〜2年 | 数年〜更新可 | 数年〜更新可 | 90日程度 |
| 永住権への接続 | 原則なし(一部例外あり) | ある場合が多い | ある場合が多い | なし |
2. ノマドビザで何ができる・何が変わるか

合法滞在・現地銀行口座・税務上のメリット
デジタルノマドビザを取得すると、観光ビザでは難しい90日を超える合法的な長期滞在が可能になります。加えて、現地の銀行口座を開設できる国が多く、生活基盤を整えやすくなります。公的な健康保険への加入資格が得られる国もあり、医療面での安心材料になります。また、税務上の居住者としての立場が明確になることで、二重課税を避けるための手続きがしやすくなる点も見逃せません。
ノマドビザの制約と注意点
一方で、制約も少なくありません。現地企業に雇用されて働くことは原則として禁止されており、あくまで海外収入で生計を立てることが前提です。滞在期間には上限があり、更新できるかどうかは国によって異なります。そして最も見落とされがちなのが、多くの国でこのビザが永住権に直接つながらないという点です。取ること自体をゴールにせず、その先をどう設計するかを先に考えてから動くことが大切だと、私は自分の移住経験を通じて実感しています。
3. ノマドビザが取得しやすい国|難易度別に整理

取得しやすさは、主に次の4つの軸で判断できます。(A)年収条件の低さ、(B)必要書類の少なさ・オンライン申請の完結度、(C)審査期間の短さ、(D)却下率の低さです。この4軸をもとに、13カ国を3段階に整理しました。
取得しやすい国|ジョージア・ポルトガル・スペイン・タイ・インドネシア
ジョージアは明確な月収の下限が設定されておらず、オンライン申請のみで完結する手軽さから、初めてノマドビザに挑戦する人に選ばれやすい国です。ただし2025年に可決された労働移住法の改正により、2026年3月以降はリモートワーカーを含む外国人への労働許可制度が段階的に導入されており、今後条件が変わる可能性がある点には注意が必要です。ポルトガルとスペインはともにヨーロッパでの取得実績が豊富で、申請書類のフォーマットが整備されており、行政書士のサポートも受けやすい環境が整っています。スペインについては、起業家向けビザとあわせて検討したい方向けにスペイン起業ビザの記事で詳しく解説しています。タイは審査期間が比較的短く、アジア圏での取得しやすさで人気を集めており、タイDTVビザの記事で条件を詳しく紹介しています。インドネシアはバリ島を中心にノマドコミュニティが発達しており、生活インフラの面でもハードルが低い国です。
標準的な難易度の国|ドイツ・クロアチア・チェコ・エストニア・ドバイ(UAE)
ドイツはフリーランスビザという形で受け入れていますが、書類審査が丁寧で、収入だけでなく生計の見通しを問われる傾向があります。クロアチアとチェコは近年ヨーロッパで人気が高まっており、審査は標準的ですが、居住証明や保険加入の手続きがやや煩雑です。エストニアはデジタル国家として申請システム自体は洗練されていますが、後述のとおり年収条件が高めに設定されています。ドバイを含むアラブ首長国連邦は税制面で語られることの多い国ですが、税率の低さだけで移住先を選ぶと、文化や生活面でのギャップに戸惑うケースもあります。あくまで制度の一つとして客観的に押さえておくとよいでしょう。
やや厳しい国|マルタ・アイスランド・ノルウェー
マルタは審査こそ標準的なものの、後述するとおり年収条件がヨーロッパの中でも高めです。アイスランドとノルウェーは、そもそも申請できる国籍や職種の条件が細かく設定されており、情報を得ること自体にも手間がかかります。物価水準も高いため、取得できたとしても生活コストの見通しを事前に立てておく必要があります。
ノマドビザを持つ人のロングステイ戦略
ノマドビザは短期の制度である以上、複数の国を組み合わせて滞在するロングステイ戦略を取る人も増えています。長期滞在に向いた国の一覧はロングステイ向けの国一覧にまとめています。また、資産要件を満たせるのであれば、より安定した滞在資格であるゴールデンビザという選択肢もあります。詳しくはゴールデンビザの記事をご覧ください。
4. ノマドビザの年収条件|国別比較表(日本円換算)

国別年収条件の比較表
為替レートは2026年7月19日時点(1EUR=185円、1USD=162円)で換算しています。為替は日々変動するため、あくまで目安としてご覧ください。
| 国 | 月収条件(現地通貨) | 月収条件(日本円換算) | 年収換算 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| ジョージア | 明確な下限なし | ― | ― | 収入証明の柔軟性が高い |
| ポルトガル | 約3,680ユーロ | 約68万円 | 約817万円 | D8ビザ、最低賃金(920€)の4倍で算定 |
| スペイン | 約2,442ユーロ | 約45万円 | 約542万円 | SMI(最低賃金1,221€)の200% |
| タイ | 残高証明50万バーツ目安 | 約222万円(残高) | ― | 月収でなく残高証明中心 |
| インドネシア | 約5,000米ドル | 約81万円 | 約972万円 | 年収6万米ドル基準 |
| ドイツ | 明確な下限なし | ― | ― | 生計資産の証明が中心 |
| クロアチア | 約3,623ユーロ | 約67万円 | 約804万円 | 変動制、保険加入手続きが必要 |
| チェコ | 残高証明が中心 | 目安数十万円台 | ― | 事業活動の実態確認あり |
| エストニア | 約4,500ユーロ | 約83万円 | 約999万円 | ヨーロッパでも高めの水準 |
| ドバイ(UAE) | 約3,500米ドル | 約57万円 | 約680万円 | 税制は客観情報として記載 |
| マルタ | 約3,500ユーロ | 約65万円 | 約777万円 | 審査は標準的だが条件は高め |
| アイスランド | 高水準(要公式確認) | 高水準 | 高水準 | 物価水準も高い |
| ノルウェー | 公式基準は個別判断 | ― | ― | 事業計画と資金証明が中心 |
※上記は2026年7月時点の一般的な目安です。実際の申請にあたっては、各国の移民局・大使館公式サイトで最新の要件を必ずご確認ください。
年収条件だけで国を選ぶ落とし穴
比較表を見ると、月収条件が低い国から優先的に検討したくなるかもしれません。しかし、年収条件だけで移住先を決めると、後から後悔するケースを私は何度も見てきました。物価水準、医療体制、言語の壁、そして永住権への接続可能性まで含めて総合的に判断する必要があります。税率や物価の低さだけで選んだ国が、実際に住んでみると自分の心にしっくりこないということは珍しくありません。私は移住先を選ぶ基準として、条件面だけでなく、心が喜べる国かどうかを大切にしています。数字の比較はあくまで入口の整理であり、最終的な決め手にはならないというのが私の実感です。
5. ノマドビザ取得のその先|永住権ルートへの接続

ノマドビザの構造的限界|「一時滞在」で終わるリスク
ノマドビザの多くは、取得できても1〜2年で更新の可否が問われる一時的な滞在資格にすぎません。制度上、多くの国で永住権に直接つながる設計にはなっていないため、「取れたから安心」と考えてしまうと、数年後に振り出しに戻ってしまう可能性があります。私は移住を考えるとき、行ってから先のことを考えるのではなく、最初から出口、つまり永住権までのルートを設計してから動くべきだと考えています。ノマドビザはあくまで通過点の一つとして位置づけるのが現実的です。
ノマドビザから永住権につながるルートの実例
一方で、ノマドビザとは別の制度を組み合わせることで、永住権まで再現性のあるルートを描ける国もあります。ポルトガルでは個人事業主向けのビザから5年間の合法滞在を継続することで永住権申請の資格が得られますし、スペインも同様に5年の在留実績が一つの基準となります。オランダでは日蘭条約に基づく個人事業主ビザを起点に、5年の滞在を経て永住権、さらにEU長期居住者資格へとつなげるルートがあります。永住権そのものの取得条件については永住権取得の条件を解説した記事、そもそも永住権とは何かについては永住権の意味を解説した記事で詳しく紹介していますので、あわせてご覧ください。
「どこでも稼げる力」があれば国は選び直せる
どの国のビザ制度を選ぶかよりも本質的なのは、雇用に頼らずどこにいても収入を得られる力を自分の中に持っておくことだと私は考えています。この力さえあれば、たとえ制度が変わっても、住む国を自分の意思で選び直すことができます。焦って一気に成果を求めるのではなく、時間をかけて積み上げていくことが、結果として長く続けられる移住につながります。
6. ワーキングホリデーとの違い|ノマドビザを選ぶ理由

制度の構造比較
ワーキングホリデーは主に18〜30代前半までの若年層を対象とした制度で、現地での就労が前提です。一方デジタルノマドビザは年齢制限が緩やかな国が多く、現地企業への就労を前提としない点が根本的に異なります。
| 項目 | デジタルノマドビザ | ワーキングホリデー |
|---|---|---|
| 年齢制限 | 緩やか(30代以降も対象の国が多い) | 多くは18〜30代前半まで |
| 収入源 | 海外の企業・クライアント | 現地での就労が前提 |
| 滞在目的 | リモートワークの継続 | 就労体験・文化交流 |
| 更新性 | 国により更新可 | 原則1回限り |
30代以降の選択肢としてのノマドビザ
ワーキングホリデーは年齢制限があるため、30代以降になると選べる国が限られてしまいます。年齢制限について詳しくはワーキングホリデーの年齢制限を解説した記事で紹介していますが、年齢に縛られずに海外での滞在を継続したい場合、収入源を自分で確保できていることを前提としたデジタルノマドビザは、有力な選択肢の一つになります。
7. まとめ
デジタルノマドビザは、就労ビザや起業ビザとは異なり、海外の収入源を維持したまま合法的に滞在できる便利な制度です。ただし、多くの国で一時的な滞在資格にとどまり、永住権に直接つながらないという構造的な限界も抱えています。国別の年収条件を比較することは入口として大切ですが、それだけで移住先を決めるのではなく、その先の永住権ルートまで見据えて、そして何より自分の心が喜べる国かどうかを基準に選んでいただきたいと思います。
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