退職後はヨーロッパでゆっくり暮らしたい。温暖な東南アジアで第二の人生を始めたい。そんな夢を持つ人が増えています。ロングステイできる国の一覧やランキングは見つかるものの、肝心の「ビザの種類」や「その先の永住権への道筋」までは整理できていないケースが少なくありません。
この記事では、世界のロングステイ・長期滞在ビザを退職者ビザ・デジタルノマドビザ・起業家ビザの3タイプに整理し、国別の一覧比較表を示したうえで、多くの情報サイトが触れていない「ビザ取得後、永住権にどうつながるのか」というその先のルートまで踏み込んで解説します。
目次
ご注意:本記事のビザ要件・滞在条件・費用等の情報は2026年7月時点のものです。各国の制度は頻繁に変更されます。申請前に、必ず各国大使館・移民局の公式サイトで最新情報をご確認ください。
※本記事の情報は執筆時点のものです。ビザ制度・年齢要件・預金額等の要件は各国で頻繁に改定されるため、最新・正確な情報は 外務省 や各国大使館・移民局の公式窓口に必ずご確認ください。
1. ロングステイとは|観光ビザでの滞在との違い

ロングステイの定義と観光ビザ滞在の限界
ロングステイという言葉には明確な定義があります。一般財団法人ロングステイ財団は、ロングステイを「2週間以上の海外滞在で、その国の生活や文化を体験すること」と位置づけています。単なる旅行ではなく、現地での暮らしそのものを体験する滞在スタイルということです。
ここで多くの人がつまずくのが、観光ビザの限界です。多くの国では観光ビザ(またはビザ免除)による滞在期間は90日以内に定められており、それを超えて暮らすには何らかの長期滞在ビザが必要になります。ロングステイを本気で考え始めた方の多くが、まさにこの「観光では足りない、ではどんなビザがあるのか」という壁にぶつかっているのではないでしょうか。
※出典: 一般財団法人ロングステイ財団 / 外務省 海外渡航情報
「旅行の延長」と「生活の移転」は別の話
ロングステイは旅行の延長線上にあるものではなく、「生活そのものを移す」行為だと捉えると理解しやすくなります。住居契約、現地の保険加入、税務上の扱い、銀行口座の開設など、旅行では必要なかった生活インフラを新たに整える必要が出てきます。
このあたりを深掘りすると長くなるため、ここでは「だからこそ、長期滞在にはビザの種類を正確に知ることが第一歩になる」という点だけ押さえておいてください。次の章で、世界のロングステイ・長期滞在ビザの種類を具体的に整理していきます。
2. ロングステイ・長期滞在ビザの主要3タイプ

世界各国のロングステイビザは、細部は国によって異なりますが、大きく3つのタイプに分類できます。
リタイアメントビザ(退職者ビザ)|年金・不労所得が前提の制度
退職者・年金受給者向けに設計された長期滞在ビザです。代表例として、タイのリタイアメントビザ(50歳以上・80万バーツ〈約389万円〉の預金要件)、マレーシアのMM2H(近年制度改定により条件が厳格化)、ポルトガルのD7パッシブインカムビザ、パナマのペンショナードビザなどが挙げられます。
これらに共通する特徴は、(1)一定年齢以上(おおむね40〜55歳)であること、(2)年金や不労所得の証明が条件になること、(3)就労が認められない国が多いこと、の3点です。「年金で暮らすこと」を前提に設計された制度であり、現地での就労や起業を予定している人には、そもそも向かない仕組みだといえます。
※金額・年齢条件は改定される可能性があります。最新情報は各国大使館・移民局の公式窓口をご確認ください。
デジタルノマドビザ|リモートワーカー向けの新しいカテゴリ
2020年代に急速に増えたのが、デジタルノマドビザというカテゴリです。スペイン、ポルトガル、ギリシャ、エストニア、クロアチア、タイ(DTV)など、すでに25〜30カ国以上が導入しています。
共通する特徴は、(1)年齢制限がないこと、(2)月2,000〜3,500ユーロ(約37万〜65万円)程度の収入証明が求められること、(3)申請国外に雇用主またはクライアントがいることが前提であること、(4)滞在期間は1〜2年で更新可能なことです。注意したいのは、「ノマドビザを取れば自動的に永住権に近づく」わけではないという点です。多くの国では直結せず、スペインやポルトガルのように別の在留資格に切り替えることで初めて永住権への道が開ける構造になっています。デジタルノマドビザの詳しい種類や各国比較については、別記事でも詳しく整理していますので、あわせてご確認ください。
デジタルノマドビザ完全ガイド(近日公開予定)
起業家ビザ・個人事業主ビザ|自分の事業を持って移住する道
自分自身の事業を持って移住する人向けのビザです。オランダの日蘭通商航海条約に基づく個人事業主ビザ、ポルトガルのD2起業ビザ、ドイツのフリーランスビザ、フランスのTalent Passeportなどが代表例として挙げられます。
共通する特徴は、(1)年齢制限がないこと、(2)事業計画と一定の初期資金が条件になること、(3)自分の事業である限り就労制限がないこと、(4)多くの国で5年程度で永住権への道が明確に用意されていること、の4点です。3タイプの中で唯一「自分の事業で稼ぐ力」そのものが条件になっているのが起業家ビザであり、それゆえに制度としても比較的安定した位置にあるといえます。この3タイプの違いが見えてくると、国を選ぶ軸そのものが変わってきます。次の章で、実際に国別の一覧表を見ていきましょう。
3. 国別ロングステイ・長期滞在ビザ一覧比較表

アジア・オセアニアのロングステイ向けビザ
アジア・オセアニア地域は、ロングステイ財団の「日本人に人気の滞在国ランキング」でも常連となるマレーシア・タイ・ハワイなどを含む地域です。ただし、人気があることと、制度として安定していることは必ずしもイコールではありません。代表的な6カ国を一覧にまとめました。
| 国 | ビザ名 | 年齢条件 | 必要資金(目安) | 滞在期間 | 就労可否 | 永住権ルート |
|---|---|---|---|---|---|---|
| タイ | リタイアメントビザ | 50歳以上 | 80万バーツ〜(約389万円〜)預金 | 1年更新 | 不可 | 実質なし |
| タイ | DTV(デジタルノマドビザ) | 年齢不問 | 50万バーツ〜(約243万円〜)資産証明 | 5年(180日ごと更新) | リモートワークのみ可 | なし |
| マレーシア | MM2H | 制度改定で条件厳格化 | 預金要件引き上げ済み | 5年更新 | 原則不可 | 事実上取得困難 |
| フィリピン | SRRV | 40歳以上 | 預金1.5万〜5万米ドル(約243万〜810万円・4段階) | 更新不要(長期滞在許可) | 条件付きで可 | 永住権相当だが引退前提 |
| インドネシア | リタイアメントビザ | 55歳以上 | 年金・預金要件あり | 1年更新 | 不可 | 実質なし |
| ニュージーランド | Active Investor Plusビザ | 年齢不問 | NZD 500万〜1,000万(約4.7億〜9.3億円)投資 | 更新制 | 条件付き | あり(投資継続が条件) |
※オーストラリアは退職者向けビザを廃止済みで、現在は投資家向けビザ体系に移行しています。金額・条件は各国大使館・移民局の公式窓口で最新情報をご確認ください。
改めて一覧にすると、「人気の国」と「暮らしやすい制度の国」が必ずしも一致しないことが見えてきます。特にマレーシアMM2Hは2021年以降の制度改定で預金要件が引き上げられ、以前より取得のハードルが上がっている点には注意が必要です。
ヨーロッパのロングステイ向けビザ
ヨーロッパは、アジアに比べて永住権からEU長期居住者許可へとつながる出口が明確な国が多いのが特徴です。代表的な7カ国を一覧にまとめました。
| 国 | ビザ名 | 年齢条件 | 必要資金(目安) | 滞在期間 | 就労可否 | 永住権ルート |
|---|---|---|---|---|---|---|
| ポルトガル | D7(パッシブインカム)/D2(起業)/ノマドビザ | 年齢不問 | 収入証明・事業計画による | 更新制 | D2・ノマドは可 | 5年で永住権 |
| スペイン | ノマドビザ/非営利ビザ/起業ビザ | 年齢不問 | 収入証明・事業計画による | 更新制 | ビザ種別による | あり(ゴールデンビザは2025年廃止) |
| フランス | 長期滞在ビザ/Talent Passeport/Visiteur(退職者向け) | 年齢不問(Visiteurは退職者想定) | 収入証明による | 更新制 | Visiteurは不可 | あり(条件による) |
| オランダ | 日蘭条約 個人事業主ビザ | 年齢不問 | 資本金要件あり | 更新制 | 可(自分の事業) | 5年で永住権 |
| ドイツ | フリーランスビザ | 年齢不問 | 事業計画・資金証明 | 更新制 | 可 | 5年で永住権 |
| ギリシャ | ノマドビザ/ゴールデンビザ | 年齢不問 | 収入証明・投資額による | 更新制 | ビザ種別による | あり(条件による) |
| イタリア | 選択的居住ビザ/ノマドビザ(2024年導入) | 年齢不問 | 収入証明による | 更新制 | ビザ種別による | あり(条件による) |
オランダの個人事業主ビザやポルトガルのD2起業ビザについては、それぞれの国の移住ルートをより詳しく解説した記事もあります。あわせてご覧ください。
オランダ移住の完全ガイド/ポルトガル移住の完全ガイド/スペイン移住の完全ガイド(近日公開予定)
※本表の数値・ステータスは執筆時点の情報です。各国政府の公式窓口で最新情報をご確認ください。
中南米・その他地域のロングステイ向けビザ
中南米地域は生活費の安さから年金暮らし層に人気がありますが、「永住権の質」がEUとは異なる点は押さえておく必要があります。パナマのペンショナードビザ(月1,000米ドル〈約16万円〉以上の年金・永住権を取得しやすい)、メキシコの一時居住者ビザ(収入証明で取得可・4年で永住権申請可)、コスタリカのレンティスタビザ(月2,500米ドル〈約41万円〉の不労所得)などが代表例です。
ドバイ・UAEにもリタイアメントビザ(55歳以上・15年以上の就労経験・不動産100万AED〈約4,410万円〉と貯蓄100万AEDの両方、または年収18万AED〈ドバイは24万AED〉)があります。ただし本記事では、税負担の軽さを理由にこうした国を推奨する立場は取りません。あくまで現行制度の情報として押さえていただければと思います。中南米・中東の国々は、シェンゲン協定のような自由移動の枠組みがない点も、ヨーロッパの永住権と比較する際の重要な違いです。
4. ビザ取得後の「次のステップ」|永住権へのルート

ロングステイビザから永住権が取れる国・取れない国
ここまで見てきたロングステイビザには、大切な共通点があります。それは、ロングステイビザとは「一時的に住んでいい」という許可であって、それ自体が永住権ではないという点です。多くのロングステイ情報サイトはこの先を書いていませんが、実はここが最も重要な分かれ道になります。
永住権への接続性で見ると、各国は大きく3つのグループに分けられます。1つ目は「接続あり」のグループで、ポルトガルのD7・D2ビザは5年で永住権、オランダの個人事業主ビザも5年で永住権、ドイツのフリーランスビザも5年で永住権と、道筋が明確です。2つ目は「条件付き接続」のグループで、スペインのノマドビザは別カテゴリへの切り替えが必要で、タイのDTVも永住権は別途厳しい審査があります。3つ目は「接続なし、または極めて困難」のグループで、マレーシアのMM2Hは事実上永住権が取得できず、フィリピンのSRRVは永住権相当ではあるものの「引退」が前提の制度です。
「最初から永住権まで設計する」という逆算の視点を持つと、ロングステイ先の選び方そのものが変わってきます。ビザの取りやすさだけでなく、その先にどんな出口があるのかまで見た上で選ぶことが、長く安定して暮らすための土台になります。永住権を取得するための具体的な条件については、別記事でさらに詳しく整理していますので、あわせてご確認ください。
永住権取得条件とは(近日公開予定)
※制度の詳細・最新の申請要件は各国大使館・移民局の公式情報をご確認ください。
「起業ビザから永住権」がワンストップで設計できる国
先ほどの(1)「接続あり」のグループを、もう少し深掘りしてみます。起業ビザで入国し、5年間事業を継続することで永住権を取得し、さらにその先でEU長期居住者許可にもつながる、という一本道を設計できるのが、オランダやポルトガルといった国々です。
退職者ビザやノマドビザでは、この先の「次のステップ」を設計しにくいという実情があります。それに対して起業ビザは、入口から出口まで一本で繋がっている点が大きな違いです。なお、投資額と引き換えに居住権を得るゴールデンビザという選択肢もありますが、これは「お金で買う」移住である一方、起業ビザは「スキルで作る」移住だという違いがあります。ゴールデンビザについては別記事で詳しく解説しています。
ゴールデンビザとは(近日公開予定)
ただし、これは「簡単に取れる魔法のビザ」ではありません。事業計画も、覚悟も、そして時間も必要です。短期間で一気に結果を出す道ではありません。小さく始めて、その国に根を張りながら、地道に事業と生活を積み上げていくプロセスです。
5. ロングステイ先を選ぶときに大切な視点

税金・物価・ビザの取りやすさだけで国を選ぶリスク
ここまで、制度面の整理を中心に進めてきました。しかし、条件を比較して「自分に合う国」を見つけるだけで、本当に満足のいくロングステイ先が選べるのでしょうか。
税率が低い、物価が安い、ビザが取りやすい。こうした条件だけで国を選ぶと、いくつかのリスクが出てきます。1つ目は、制度改正によってはしごを外される可能性があることです。マレーシアMM2Hの条件厳格化は、その一例だといえます。2つ目は、条件に惹かれて選んだ国であっても、実際にそこで暮らしてみて心が動かなければ、長続きしないということです。3つ目は、条件だけで選んだ土地には生活基盤が育ちにくく、孤立しやすいという点です。
条件で選ぶ移住は、いわば受け身の構造だといえます。とはいえ、これは「条件を見るな」という話ではありません。条件を整理した上で、もうひとつ大切にしたい軸があります。
心が喜ぶ国を選ぶという考え方
その視点とは、「その街を歩いているだけで幸せを感じるか」「文化や人との距離感が心地よいか」という、税率やビザ条件だけでは測れない価値です。
ロングステイは、短期の旅行とは違い、日々の暮らしそのものになっていきます。条件だけで選んだ国では、その暮らしが長続きしないことも少なくありません。ロングステイの一覧表やランキングは、あくまで検討を始めるための出発点にすぎないのです。最終的に大切なのは、条件の先にある「自分がその国でどう生きたいか」を、自分自身で設計していくことではないでしょうか。
6. まとめ|ロングステイ先を選ぶ前に考えたいこと
ここまで、世界のロングステイ・長期滞在ビザについて整理してきました。改めて振り返ると、次の4点が重要なポイントです。
1つ目は、ロングステイ向けビザは退職者ビザ・ノマドビザ・起業家ビザの3タイプに大別できるということ。2つ目は、国によって条件・費用・そして永住権への接続性が大きく異なるということ。3つ目は、多くの情報サイトが書いていない「ビザの先、つまり永住権ルートの有無」が、長期的な暮らしの安定を左右するということ。そして4つ目は、条件だけでなく「心が喜ぶ国かどうか」が、ロングステイを本当の意味での暮らしに変える鍵になるということです。
POINT|大切な考え方
一覧表やランキングは、あくまで候補を絞るための出発点です。大切なのは、その先にある自分だけのルートを設計することです。
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